ここでは、システム開発に関連した著作権に着目して、その説明を行っていきます。
思っていたより量が多くなってしまったので、エントリを分割することとしました。
著作物とは、著作権法によると、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」とされています。そして、プログラムも著作物として、著作権法による保護を受けることができます。
著作権法によると、同法上にいうプログラムとは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう」とされ、ソースコードやオブジェクトコードのいずれもが該当するとされています。
なお、プログラミング言語やアルゴリズムには著作物性が認められず、著作権法による保護は受けられません。
プログラムの著作物性については、創作性の有無が問題となりがちです。
裁判例上、プログラムの創作性の有無の判断基準は、「ある結果を得るための指令の表現や組み合わせに選択の幅がありそこに作成者の個性が表れているかどうか」という点に置かれ、これが認められる場合に創作性が認められるとされることが多いです。
例えば、知財高判平成28・4・27判時2321-85は、次のように判示しています。
知財高判平成28・4・27判時2321-85
「プログラムの具体的記述が、表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一になるもの、ごく短いもの又はありふれたものである場合においては、作成者の個性が発揮されていないものとして、創作性がないというべきである。他方、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序からなるプログラム全体に、他の表現を選択することができる余地があり、作成者の何らかの個性が表現された場合においては、創作性が認められるべきである。」
以下は「ウェザーニュースが提供している東京都千代田区付近の天気から、文章部分のみを抜き取ってSlackに流す」という目的で私が書いたコードです。なお、鉤括弧部分はアイデアということになります。
require 'faraday'
require 'faraday_middleware'
require 'nokogiri'
require 'slack/incoming/webhooks'
require 'dotenv'
Dotenv.load
slack = Slack::Incoming::Webhooks.new ENV['SLACK_WEATHER_WEBHOOK']
uri = %(https://weathernews.jp/onebox/35.694436/139.780608/q=%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%8D%83%E4%BB%A3%E7%94%B0%E5%8C%BA&v=ba5851c838e0889ea017d8a194a0860892fca55e36d9e91aa1210b5771bb5d07&lang=ja&type=)
%w(day week).each do |type|
Nokogiri::HTML(Faraday.get(uri+type).body).xpath('//div[@class="comment no-ja"]').each do |node|
normal = {
title: node.xpath('p[@class="tit-02"]').text,
text: node.xpath('p')[1].text.tr('、', ',').tr('0-9a-zA-Z', '0-9a-zA-Z')
}
slack.post "", attachments: [normal]
end
end
空行を除いて17行というごく短いコードであり、前記アイデアを実現させるという前提であれば、ライブラリの選択の幅や記述の幅は多少あっても、このようなコードとなるのはごく自然であると考えられます。
とすれば、このコードについては、ありふれた表現であり、作成者(私)の個性が表れているとはいえず、創作性の要件をみたさないと考えるのが適切ではないかと思われます。
まず、大前提として、著作権は、著作物を創作した者に帰属します。
システム開発の場合、これを受託するのは会社等の法人(ベンダ)ですが、実際にコーディングをするのは(下請等の存在を考慮しなければ)ベンダの従業員です。
では、実際にコーディングを行ったベンダの従業員が著作権者になるのかというと、通常はそうではありません。
ベンダの発意に基づいて、ベンダの業務に従事するベンダの従業員がコーディングをし、プログラムの著作物を作成するのが通常でしょうから、原則として、ベンダが著作者となり、著作権(著作者人格権も含みます。)もベンダに原始的に帰属することとなります(これを「職務著作」といいます。著作権法15条2項)。
ベンダに原始的にプログラムの著作物の著作権が帰属することは上述のとおりです。
しかし、実際には、システム開発基本契約等において、著作権の移転や譲渡に関する合意がなされることが多いのではないでしょうか。
この場合には、当該合意に従って、ユーザに著作権が帰属することとなります。
著作権とは、その権利者に、権利の排他的利用を認める性質をもった権利です。
ここがなかなかわかりにくいところかと思われますが、「利用」に関して排他独占性が認められているのであって、「利用」と言えなければ著作権侵害は成立しません。
また、形式的には「利用」であっても、法が著作権を「制限」(これもわかりにくいところですが、権利者の権利が「制限」されることを意味します。)している場合にも、著作権侵害は成立しません。身近な例としては、家庭内における私的複製が挙げられます。
さて、プログラムの著作物について考えられる「利用」としては、「複製」「翻案」「譲渡」「公衆送信」の4種類が挙げられます。
そして、先ほどの「制限」に関しては、例えば、次の点が制限事由として挙げられます。
ただし、機能追加、削除、変更等に関しては、「必要と認められる限度」がどこまで認められるかは不透明であり、紛争防止のためには、予めベンダとユーザとの間で合意をしておくべきといえます。
著作権法第47条の3 プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。ただし、当該実行に係る複製物の使用につき、第103条第2項の規定が適用される場合は、この限りでない。
2 (略)
著作権法第47条の4 電子計算機における利用(情報通信の技術を利用する方法による利用を含む。以下この条において同じ。)に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合において、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑又は効率的に行うために当該著作物を当該電子計算機の記録媒体に記録するとき。
二 自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者が、当該他人の自動公衆送信の遅滞若しくは障害を防止し、又は送信可能化された著作物の自動公衆送信を中継するための送信を効率的に行うために、これらの自動公衆送信のために送信可能化された著作物を記録媒体に記録する場合
三 情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合において、当該提供を円滑又は効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うことを目的として記録媒体への記録又は翻案を行うとき。
2 電子計算機における利用に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 記録媒体を内蔵する機器の保守又は修理を行うために当該機器に内蔵する記録媒体(以下この号及び次号において「内蔵記録媒体」という。)に記録されている著作物を当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し、及び当該保守又は修理の後に、当該内蔵記録媒体に記録する場合
二 記録媒体を内蔵する機器をこれと同様の機能を有する機器と交換するためにその内蔵記録媒体に記録されている著作物を当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し、及び当該同様の機能を有する機器の内蔵記録媒体に記録する場合
三 自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者が、当該自動公衆送信装置により送信可能化された著作物の複製物が滅失し、又は毀損した場合の復旧の用に供するために当該著作物を記録媒体に記録するとき。
著作権者は、著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができます。
また、著作権者は、著作権侵害行為によって作成された物や著作権侵害行為に専ら供せられた物品等の廃棄等、侵害の停止又は予防に必要な措置を講じるよう請求することができます(著作権法112条)。
加えて、著作権者は、故意又は過失によって著作権を侵害した者に対し、損害賠償請求をすることができます(著作権法114条)。
なお、ここでの著作権に関する説明よりもより総論的な事項については、下記の各エントリに記載しています。
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