著作物とは、著作権法によると、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」とされています。
著作物性について、実務上特に問題とされることが多いのは、「創作的に」という部分(「創作性」と言われています。)という部分であるとされています。
創作性とは、表現に作成者の何らかの個性が表れていれば足り、高度な学術性や芸術性を要求するものではないとされています。
思想や感情を表現する上で、性質上、その表現方法が一義的に決まってしまい他の表現方法を選択する余地がないか、一義的には決まらずとも表現方法の選択の幅が狭く、誰が表現をしても同じようなありふれた表現になってしまう場合には、その表現には個性がないとして、創作性は否定されることとなります。
また、あくまで表現に著作物性が認められるのであって、アイデアは表現でない以上、アイデアには著作物性は認められません。
プログラムも著作物として著作権法による保護を受けることができます。
著作権法によると、同法上にいうプログラムとは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう」とされ、ソースコードやオブジェクトコードのいずれもが該当するとされています。
なお、プログラミング言語やアルゴリズムには著作物性が認められず、著作権法による保護は受けられません。
プログラムの著作物性についても、創作性の有無が問題となりがちです。
裁判例上、プログラムの創作性の有無の判断基準は、「ある結果を得るための指令の表現や組み合わせに選択の幅がありそこに作成者の個性が表れているかどうか」という点に置かれ、これが認められる場合に創作性が認められるとされることが多いです。
例えば、知財高判平成28・4・27判時2321-85は、次のように判示しています。
知財高判平成28・4・27判時2321-85
「プログラムの具体的記述が、表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一になるもの、ごく短いもの又はありふれたものである場合においては、作成者の個性が発揮されていないものとして、創作性がないというべきである。他方、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序からなるプログラム全体に、他の表現を選択することができる余地があり、作成者の何らかの個性が表現された場合においては、創作性が認められるべきである。」
以下は「ウェザーニュースが提供している東京都千代田区付近の天気から、文章部分のみを抜き取ってSlackに流す」という目的で私が書いたコードです。なお、鉤括弧部分はアイデアということになります。
(ちなみに、実際に私はこれをcronで動かしていて、天気予報としてこれだけを見ていることがほとんどです。)
require 'faraday'
require 'faraday_middleware'
require 'nokogiri'
require 'slack/incoming/webhooks'
require 'dotenv'
Dotenv.load
slack = Slack::Incoming::Webhooks.new ENV['SLACK_WEATHER_WEBHOOK']
uri = %(https://weathernews.jp/onebox/35.694436/139.780608/q=%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%8D%83%E4%BB%A3%E7%94%B0%E5%8C%BA&v=ba5851c838e0889ea017d8a194a0860892fca55e36d9e91aa1210b5771bb5d07&lang=ja&type=)
%w(day week).each do |type|
Nokogiri::HTML(Faraday.get(uri+type).body).xpath('//div[@class="comment no-ja"]').each do |node|
normal = {
title: node.xpath('p[@class="tit-02"]').text,
text: node.xpath('p')[1].text.tr('、', ',').tr('0-9a-zA-Z', '0-9a-zA-Z')
}
slack.post "", attachments: [normal]
end
end
空行を除いて17行というごく短いコードであり、前記アイデアを実現させるという前提であれば、ライブラリの選択の幅や記述の幅は多少あっても、このようなコードとなるのはごく自然であると考えられます。
とすれば、このコードについては、ありふれた表現であり、作成者(私)の個性が表れているとはいえず、創作性の要件をみたさないと考えるのが適切ではないかと思われます。
デザインをするにあたって重要な地位の一つを占める書体ですが、原則として、書体は著作物として保護されないとされています。
例外的に、①従来の書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつ、②それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていた場合に、書体も著作物としての保護を受けることとなります。
最判平成12・9・7民集54-7-2481
「印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。この点につき、印刷用書体について右の独創性を緩和し、又は実用的機能の観点から見た美しさがあれば足りるとすると、この印刷用書体を用いた小説、論文等の印刷物を出版するためには印刷用書体の著作者の氏名の表示及び著作権者の許諾が必要となり、これを複製する際にも著作権者の許諾が必要となり、既存の印刷用書体に依拠して類似の印刷用書体を制作し又はこれを改良することができなくなるなどのおそれがあり……著作権法の目的に反することになる。また、印刷用書体は、文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受けるものであるところ、これが一般的に著作物として保護されるものとすると、著作権の成立に審査及び登録を要せず、著作権の対外的な表示も要求しない我が国の著作権制度の下においては、わずかな差異を有する無数の印刷用書体について著作権が成立することとなり、権利関係が複雑となり、混乱を招くことが予想される。」
データベースも著作物として著作権法による保護を受けることができます。
著作権法によると、同法上にいうデータベースとは、「論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」とされています。
なお、データベースを稼働させるプログラムは、データベースの著作物に含まれず、プログラムの著作物としての保護を受けることとなります。
データベースの著作物として、著作権法による保護を受けるためには、情報の選択又は体系的構成のいずれか一方に創作性が認められば足りることとなります。
情報の選択については、網羅的に情報を登録しているデータベースが少なくないことから、創作性が認められることが困難であることも多いとされています。
その一方で、体系的構成、言い換えれば配列ですが、これについては、データベースの性質上、創作性が認められることが多いとされています。
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