弁護士 野溝夏生

著作権侵害の主体

「誰が著作権を侵害しているのか」

著作権者は、著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができます。
また、著作権者は、著作権侵害行為によって作成された物や著作権侵害行為に専ら供せられた物品等の廃棄等、侵害の停止又は予防に必要な措置を講じるよう請求することができます(著作112条)。
加えて、著作権者は、故意又は過失によって著作権を侵害した者に対し、損害賠償請求をすることができます(著作114条)。

以上から、著作権侵害訴訟において、被告とされる者は、「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」又は「故意又は過失によって著作権を侵害した者」ということになります。

なお、「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」には、著作権法が間接侵害の規定を置いていないことから、教唆者や幇助者は含まれません。
したがって、例えば、著作権侵害行為に専ら供せられるような物品等を生産・販売するといった、著作権侵害行為の幇助行為自体は、著作権侵害行為とはみなされず、この者を「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」と扱うこともできません。
他方、「故意又は過失によって著作権を侵害した者」については、あくまで民法上の不法行為責任が問題となるにすぎません。
そのため、教唆者や幇助者であるか否かは、大きな問題とはならないといえます。

本エントリでは、著作権の侵害主体に関する有名な最高裁判所判例を3つ、紹介することとします。

最判昭和63・3・15民集42-3-199(カラオケ法理、クラブキャッツアイ事件)

まずは、カラオケ法理で有名な、最判昭和63・3・15民集42-3-199です。

事案の概要は次のとおりです。
Yらが共同経営するスナックにおいて、JASRACの管理楽曲が録音されたカラオケテープの再生による伴奏により、ホステス等の従業員や客が楽曲を歌唱していました。そこで、JASRAC側は、この従業員や客の歌唱につき、その主体はスナック経営者であるYらであり、Yらがまさに「故意又は過失によって著作権を侵害した者」であるとして、Yらに対し、損害賠償を請求しました。

なお、本件の背景事情として、次の2点が挙げられます。
まず、仮に歌唱の主体が客であるとすれば、客は歌唱により報酬を得ず、営利目的を欠くため、客による歌唱行為は適法となります(著作38条1項)。また、本件当時は、カラオケテープの再生自体は著作権(演奏権)侵害に当たらないと考えられていました(旧著作権法附則14条。現在は廃止されており、カラオケテープの再生自体も演奏権侵害に該当します。)。

最判昭和63・3・15民集42-3-199
 本件の「事実関係のもとにおいては、ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体はYらであり、かつ、その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべきである。けだし、客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること(著作権法22条参照)は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、Yらと無関係に歌唱しているわけではなく、Yらの従業員による歌唱の勧誘、Yらの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、Yらの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、Yらの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、Yらは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図したというべきであって、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からはYらによる歌唱と同視しうるものであるからである。」

○カラオケ法理

最判昭和63・3・15民集42-3-199はあくまでも事例判決にすぎず、他の事案にもその射程が直ちに及ぶものではありません。しかし、同最判により、いわゆる「カラオケ法理」が確立されたとされています。

カラオケ法理とは、次の要件をいずれもみたす場合、著作権の侵害主体となるという法理です。

ただし、後掲最判平成23・1・20民集65-1-399等に照らすと、やはりカラオケ法理はあくまでも事例判決にすぎず、最高裁も、この2要件を常に採用すべき判断基とは考えていないというべきでしょう。

最判平成23・1・18民集65-1-121(まねきTV事件)

次に紹介するのは、まねきTV事件として有名な、最判平成23・1・18民集65-1-121です。

事案の概要は次のとおりです。
サービス提供者Yは、インターネットを通じて、Y事務所で受信した地上波TV放送をストリーミング配信により視聴できる「まねきTV」というサービスを、有償でユーザーに提供していました。ユーザーは、市販されていた「ロケーションフリー(ロケフリ)」を購入し、これと対になる「ベースステーション」をYの事務所内に設置していました。
これに対し、放送事業者Xらは、Yに対し、Yのサービス提供行為が、Xらの送信可能化権や公衆送信権を侵害するとして、放送の送信可能化行為及び公衆送信行為の差止を求めるとともに、損害賠償を求めました。
なお、本件の背景事情として、次の点が挙げられます。
仮に、個人が、ロケフリを購入した上でベースステーションを当該個人の自宅等に設置し、当該ベースステーションを介して受信したTV放送を、インターネットを通じてストリーミング配信により視聴するにすぎないのであれば、当該個人の行為は、公衆送信には該当しません。
このように、個人の私的利用であれば適法だが、そのいわば代行業を営んでいた第三者の行為を、著作権法上どのように評価すべきかという点が問題となっていました。

最判平成23・1・18民集65-1-121
 「自動公衆送信……の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり、当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。」
 「本件サービスにおいて、テレビアンテナからベースステーションまでの送信の主体がYであることは明らかである上、上記……のとおり、ベースステーションから利用者の端末機器までの送信の主体についてもYであるというべきであるから、テレビアンテナから利用者の端末機器に本件番組を送信することは、本件番組の公衆送信に当たるというべきである。」

同最判で重要なのは、引用部分の第1段落部分と考えられます。
すなわち、自動公衆送信の主体となる者の判断基準を示したという点に、同最判の重要性があるものといえます。

最判平成23・1・20民集65-1-399(ロクラクII事件)

最後に紹介するのは、ロクラクII事件として有名な、最判平成23・1・20民集65-1-399です。

事案の概要は次のとおりです。
Yは、ロクラクIIという機器を製造し、販売又は貸与する事業を行っていました。ロクラクIIには、親機と子機があり、うち親機は、TVチューナーを内蔵し、受信したTV放送をデジタルデータとして録画する機能と、当該録画データをインターネットを通じて送信する機能を有しており、Yがこれを管理していました。他方、子機は、親機からの送信されたデータを受信して再生する機能を有していました。
ロクラクIIのユーザーは、子機を操作することで、Yが管理する親機に対して録画の指示を行い、また、親機が録画したデータを受信し、再生、視聴していました。
これに対し、放送事業者Xらは、Yに対し、Yの行為が、Xらの複製権を侵害するとして、放送の複製の差止を求めるとともに、損害賠償を求めました。
なお、ロクラクIIの場合も、仮に、個人が、親機を当該個人の自宅等に設置し、当該親機を介して録画したTV放送を子機を通して視聴していたのであれば、私的利用の範囲内であるとして、著作権侵害には該当しなかったものと考えられます。

最判平成23・1・20民集65-1-399
 「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち、複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ、上記の場合、サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製機器を用いた放送番組の複製の実現における枢要な行為をしており、複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり、サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。」

同最判は、引用部分で「単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず」と判示しているように、Yが単なる幇助者ではないことを明らかとしています。

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