著作者とは、著作権法によると「著作物を創作する者」とされています(2条1項2号)。
法人は思想又は感情を創作的に表現できませんから、著作者となるのは、原則として、自然人のみということとなります。
しかし、これには例外があり、一定の条件を満たした場合には、法人も含めた法人等が著作者となります。そして、その場合を職務著作といいます。
職務著作が成立すると、その著作物の著作権及び著作者人格権は、法人等に帰属することとなります。
例えば、プログラムの著作物の著作者は、職務著作の規定によりベンダとされ、当該著作物の著作権は、はじめからベンダに帰属するのが原則とされることとなります。
職務著作の成立要件を整理すると、下記の4点となります。
著作権法15条 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
以下では、説明の便宜上、各条件の順序を変更して述べていくこととします。
まず、法人等との間で雇用関係にある従業員は、「法人等の業務に従事する者」に該当します。
また、従業員ではない会社役員も、「法人等の業務に従事する者」に該当するものと考えられています(東京地判平成21・6・19(平成20年(ワ)第12683号事件)等)。
ところで、法人等との間での雇用関係の存否が争われた場合でも、「法人等の業務に従事する者」に該当する場合があります。
これにつき、最判平成15・4・11集民209-469は、次のように述べています。
最判平成15・4・11集民209-469
「法人等が著作者とされるためには、著作物を作成した者が『法人等の業務に従事する者』であることを要する。法人等と雇用関係にある者がこれらに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の『法人等の業務に従事する者』に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。」
法人等との間に雇用関係がない場合については、様々な見解が存在するところです。
なお、最判平成15・4・11集民209-469は、あくまでも法人等との間での雇用関係の存否が争われた場合の判例ですから、法人等との間に雇用関係がない場合についてまで、その射程が直ちに及ぶわけではありません。
もっとも、実際には、最判平成15・4・11集民209-469が示した諸要素に基づき、実質的に「法人等の業務に従事する者」といえるか否かを判断する下級審裁判例が多いものと考えられます。
例えば、東京地判平成28・2・25判時2314-118は、次のように、最判平成15・4・11集民209-469が示した諸要素に基づき判断することを明示的に述べています。
東京地判平成28・2・25判時2314-118
「法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等のの指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきである。」
「職務上作成する著作物」については、業務に従事する者に直接命令されたものはもちろんのこと、それ以外でも、業務に従事する者の職務上、作成することが予定又は予期される行為も含まれるものと考えられています(知財高判平成18・12・26判時2019-92、知財高判平成22・8・4判タ1344-226等)。
また、「職務上作成する著作物」に該当するか否かを判断するに際しては、東京地判平成16・11・12裁判所Webサイトの示した各要素が参考となります。
東京地判平成16・11・12裁判所Webサイト
「個々の著作物が著作権法15条1項にいう『職務上作成する著作物』に該当するかどうかは、法人等の業務の内容、著作物を作成する者が従事する業務の種類・内容、著作物作成行為の行われた時間・場所、著作物作成についての法人等による指揮監督の有無・内容、著作物の種類・内容、著作物の公表態様等の事情を総合勘案して判断するのが相当である。」
まず、法人等が著作物の作成を企画、構想し、業務に従事する者に作成を具体的に命じた場合や、業務に従事する者が法人等の承諾を得てから著作物を作成するような場合には、「法人等の発意」があるといえます。
さらに、法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり、法人等の計画に従い、業務に従事する者が所定の職務を遂行しているにすぎない場合には、法人等の具体的な指令や承諾がない場合でも、業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り、「法人等の発意」があるものと考えられています(知財高判平成18・12・26判時2019-92、知財高判平成22・8・4判タ1344-226等)。
基本的には、法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物であること、に該当するならば、当該著作物は法人等の発意に基づくものと考えられます。
ただし、もちろん例外も存在しますので、著作物作成に至る経緯等の事情が重要であることには変わりはありません。
「法人等の発意に基づく」か否かの判断にあたっては、東京地判平成17・12・12判タ1234-301(知財高判平成18・12・26判時2019-92の第1審) の判示が参考になると考えられます。
東京地判平成17・12・12判タ1234-301(知財高判平成18・12・26判時2019-92の第1審)
「職務著作の規定が、業務従事者の職務上の著作物に関し、法人等及び業務従事者の双方の意思を推測し、一般に法人等がその著作物に関する責任を負い、対外的信頼を得ることが多いことから、一定の場合に法人等に著作者としての地位を認めるものであることに照らせば、法人等の発意に基づくことと業務従事者が職務上作成したこととは、相関的な関係にあり、法人等と業務従事者との間に正式な雇用契約が締結され、業務従事者の職務の範囲が明確であってその範囲内で行為が行われた場合には、そうでない場合に比して、法人等の発意を広く認める余地があるというべきであり、その発意は、前記のとおり、間接的であってもよいものである。そして、そのように職務の範囲が明確で、その中で創作行為の対象も限定されている場合であれば、そこでの創作行為は職務上当然に期待されているということができ、この場合、特段の事情のない限り、当該職務行為を行わせることにおいて、当該業務従事者の創作行為についての意思決定が法人等の判断に係らしめられていると評価することができ、間接的な法人等の発意が認められると解するのが相当である。」
条文上、「公表したもの」ではなく、「公表するもの」とされていますから、未公表であっても、法人等がその名義で公表するであろうものも、ここでは含まれるものと考えられています。
東京地判平成7・10・30判タ908-69も、次のように述べています。
東京地判平成7・10・30判タ908-69
「文理的にも、『公表したもの』ではなく、未公表のものを含む趣旨が明らかな『公表するもの』との文言が使用されており、実質的にも、同じく、法人その他の使用者の発意に基づくその法人等の業務に従事する者が職務上作成したものでありながら、公表されたか否かで著作権が異なったり、同じ著作物が公表される前と後で著作物が変動する結果となるのは妥当性を欠く」
実務としては、実際に公表された際に付された著作の名義が、「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であるか否かを判断する上で、重要な事実であると考えられています。
この要件は、職務著作におけるその余の成立要件をみたすことを前提として、初めて問題となるものです。
契約や勤務規則に「法人等を著作権者とする」等という定めがあった場合でも、およそ他の要件をみたさないならば、職務著作がそもそも成立しない以上、法人等が著作者となることはありません。
この場合でも、著作権は譲渡が可能ですから、別途、契約によって法人等に著作権を譲渡することはもちろん可能です。
もっとも、著作者人格権は、あくまでも著作者に帰属するものですから、法人等には著作者人格権は帰属しないこととなります。
なお、後の紛争を避けるためには、著作物の扱いや著作物の作成に至る経緯等に関する書面を作成・交付し、相互に保有しておくことも一考に値するものと考えられます。
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