弁護士 野溝夏生

著作権に関する紛争(その2)

前回のエントリの続きとなります。

このエントリでは、具体的な紛争について記載していくこととします。 ソフトウェア開発ないしシステム開発において、著作権に関して生じる紛争としては、大きく次の2つに分かれるかと思われます。

著作権の帰属が争われる場合とは、プログラムの複製や翻案等自体は問題となっていないが、そもそも当該プログラム自体の著作権が誰に帰属しているのかが争われる場合を指します。
他方、著作権侵害が争われる場合とは、プログラムの複製や翻案等が問題となっている場合で、既存著作物のコピー等を作成したのではないか等が争われる場合を指します。

もちろん、これらが単独で争われることもあれば、いずれもが争われることもあり得ます。

著作権の帰属が争われる場合

元従業員等との間での争い

元従業員や元役員等との間の争いでは、通常、著作権の原始的帰属が争われることとなります。

その1で述べたとおり、原則として、プログラムの著作権はベンダ会社自体に原始的に帰属するのがほとんどかと思われます。
そこで、争点となる部分としては、職務著作が成立するのかどうか、より具体的な争点としては、次の各点が挙げられます。

○当該プログラムの作成者又は関与者の特定

また、問題となっているプログラムが、いわゆる一次創作物なのか、またはいわゆる二次創作物なのか、という問題も生じ得ます。
仮に二次創作物であれば、その著作物の著作者自体は、二次創作物を創作した者となるのが原則です。
よって、その場合も別途一次創作物の著作権侵害の有無という問題は生じ得ますが、著作権の帰属先という観点からすると、「誰が」「どこまで」「プログラムを作成し、又はその作成に関与したのか」という点を、一定程度明らかとする必要が生じるものと考えられます。

ユーザとの間での争い

ユーザとの間の争いでは、通常、著作権譲渡の合意の有無や、譲渡の範囲が争われることとなります。

ベンダが創作した著作物の著作権は、職務著作規定によりベンダにすべて帰属するのが原則ですから、何らかの合意のない限りは、ユーザには著作権は譲渡されません。
著作権の譲渡については、ユーザが立証責任を負うこととなり、すなわち、ユーザが「著作権譲渡の合意があった」ことを証明しなければなりません。

一般的には、契約書において、著作権の帰属をベンダ・ユーザ間でどのようにするのか定めることとなるかと思われます。当事者間で定められることは、知財高判平成18・4・12裁判所Webサイトが次のように判示しているとおりです。

知財高判平成18・4・12裁判所Webサイト
 「プログラムの開発委託契約に基づいて開発されたプログラムの著作権につき,受託者に発生した著作権を委託者に譲渡するのか,受託者に留保するのかは,契約当事者間の合意により自由に定めることのできる事項である。」

○契約書における著作権帰属の定め

経済産業省から出されているモデル契約書では、以下の3つの案が挙げられています。
一般的に用いられているのは、そのうちのB案かと思われます。
その理由としては、ベンダによってソースコードが再利用されることは経済合理性に適う一方で、ユーザにまったく著作権が帰属しないというのでは委託料を支払っているユーザからの不満が生じ、その点、汎用的な利用が可能であればベンダとしては十分なことも多いからであると考えられます。

A案(ベンダにすべての著作権を帰属させる場合)
第45条 納入物に関する著作権(著作権法第27 条及び第28 条の権利を含む。)は、甲又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、乙に帰属するものとする。
2 (略)

B案(汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権をベンダへ、それ以外をユーザに権利を帰属させる場合)
第45条 納入物に関する著作権(著作権法第27 条及び第28 条の権利を含む。以下同じ。)は、乙又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権及び汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、甲より乙へ当該個別契約に係る委託料が完済されたときに、乙から甲へ移転する。なお、かかる乙から甲への著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。
2 (略)

C案(汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権をベンダへ、それ以外を共有とする場合)
第45条 納入物のうち本件業務によって新たに生じたプログラムに関する著作権(著作権法第27 条及び第28 条の権利を含む。)は、汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、個別契約において定める時期をもって、甲及び乙の共有(持分均等)とし、いずれの当事者も相手方への支払いの義務を負うことなく、第三者への利用許諾を含め、かかる共有著作権を行使することができるものとする。なお、乙から甲への著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。また、乙は、甲のかかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。
(以下略)

著作権侵害が争われる場合

例えば、ベンダの元従業員が、退職後、競争関係に立つ別会社において、ベンダが開発したソフトウェア等と類似するソフトウェア等を開発した場合等が、著作権侵害が争われる場合の典型例となります。
また、その他には、ベンダがユーザの委託を受けて開発したソフトウェアをベースに、新たにパッケージソフトを開発した場合等も、著作権侵害が争われることがあります。

このように、多くは「複製」や「翻案」が問題となることがほとんどですので、ここではこれら2つについてのみ、述べていくこととします。

「複製」「翻案」とは

著作権法上の「複製」とは、最判昭和53・9・7民集32-6-1145(ワンレイニーナイト・イントーキョー事件)に照らし、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを有形的に再製することをいう」とされています。

著作権侵害が成立するためには、問題となる著作物が、既存の著作物に「依拠」していることが必要です。 すなわち、まったく同一の著作物が作成された場合であっても、既存の著作物に依拠していない場合には、著作権侵害は成立しないこととなります。

既存の著作物に依拠しているといえるためには、著作権侵害者とされる者が、既存の著作物の表現内容を認識し、かつ、自己の作品にそれを利用しようとする意思が必要です。 一般的には、類似性の程度、無意味部分や誤記の共通性などをはじめとして、関連する様々な事情を総合考慮して判断されることとなります。 プログラムの著作物でいえば、依拠しなければ生じない可能性が非常に高いバグやダミー部分等が含まれていれば、当該プログラムの著作物に依拠して別のプログラムの著作物が作成されたといえる可能性は高くなります。

最判昭和53・9・7民集32-6-1145(ワンレイニーナイト・イントーキョー事件)  「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう」

また、最判平成13・6・28民集55-4-837(江差追分事件)によると、著作権法上の「翻案」とは、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」とされています。

最判平成13・6・28民集55-4-837(江差追分事件)  「言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。」

○アイデア?

著作権は具体的な表現物にのみ付与される権利であり、具体的な表現物でなければ、著作物としての著作権法上の保護を受けることはできません。
よくあるのは、アイデアが同一ないし類似であるから著作権が侵害されている、という主張です。
しかし、アイデア自体は具体的な表現物ではありませんから、これのみによっては著作権侵害であるとは言えません。

以下は「ウェザーニュースが提供している東京都千代田区付近の天気から、文章部分のみを抜き取ってSlackに流す」という目的で私が書いたコードです。なお、鉤括弧部分はアイデアということになります。
したがって、この機能を有していることやこの動作を行うことそれ自体は、著作権による保護を受けないことになります(そもそもこのコードが著作権法上の著作物としての保護を受けられるか、という問題もあります。)。

  require 'faraday'
  require 'faraday_middleware'
  require 'nokogiri'
  require 'slack/incoming/webhooks'
  require 'dotenv'

  Dotenv.load

  slack = Slack::Incoming::Webhooks.new ENV['SLACK_WEATHER_WEBHOOK']

  uri = %(https://weathernews.jp/onebox/35.694436/139.780608/q=%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%8D%83%E4%BB%A3%E7%94%B0%E5%8C%BA&v=ba5851c838e0889ea017d8a194a0860892fca55e36d9e91aa1210b5771bb5d07&lang=ja&type=)

  %w(day week).each do |type|
    Nokogiri::HTML(Faraday.get(uri+type).body).xpath('//div[@class="comment no-ja"]').each do |node|
      normal = {
        title: node.xpath('p[@class="tit-02"]').text,
        text: node.xpath('p')[1].text.tr('、', ',').tr('0-9a-zA-Z', '0-9a-zA-Z')
        }
      slack.post "", attachments: [normal]
    end
  end

「複製」「翻案」の立証上の問題

プログラムの著作物として問題となるのは、基本的にはソースコードということになります。
そして、上述した「複製」「翻案」の定義からすると、著作権侵害(複製権、翻案権)の侵害の有無は、ソースコードの対比によって決せられることとなります。
ということは、すなわち、相手方のソースコードを入手する必要があります。

任意に提出がなされないとすると、以下の3つが入手手段となります。

ただし、いずれについても難点はあり、必ずしも相手方のソースコードを容易に入手できるわけではありません。

「複製」「翻案」の有無の判断要素

一般的には、類似性の程度、記述の幅の広さの程度、無意味部分や誤記の共通性などをはじめとして、関連する様々な事情を総合考慮して判断されることとなります。
プログラムの著作物でいえば、依拠しなければ生じない可能性が非常に高いバグやダミー部分等が含まれていれば、当該プログラムの著作物に依拠して別のプログラムの著作物が作成されたといえる可能性は高くなります。

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