弁護士 野溝夏生

東京地判平成31・3・26(プロジェクト頓挫と協力義務)

事案の概要

本件は、情報通信事業を営む株式会社TOKAIコミュニケーションズ(原告、X)が、自社の通信事業用基幹システムについて、情報システム開発業者である株式会社日立ソリューションズ(被告、Y)に対し、従前使用していたシステム(以下「現行システム」といいます。)に代わる新たなシステム(以下「本件システム」といいます。)の開発業務を請け負わせましたが、結局、その完成に至らないまま、上記請負契約を解除したことに関して生じた紛争です。

本訴は、Xが、Yにおいて当該開発業務を遅延させて納期を経過しても上記システムが完成する見込みのない状況にあったことから、Yの債務不履行(履行遅滞)を理由に上記請負契約を解除したと主張して、Yに対し、22億2625万8522円(内訳は下記のとおり)の支払を求めた事案です。

これに対し、反訴は、Yが、納期までに上記システムを完成させることができなかったのは、もっぱらXがユーザーとして、ベンダーであるYに対し、大量の契約範囲外の作業を行わせるとともに、開発方針の不合理な変更を繰り返したほか、その開発に必要な協力を果たさなかったことなどの協力義務違反があったためであり、Yの責めに帰すべき事由はなかったから、これについて上記請負契約上の債務不履行は成立せず、Xの契約解除は、注文者解除権(民法641条)又はその基本契約上の特約に基づくものであるなどと主張して、Xに対し、12億9005万5618円又は12億2028万6216円(内訳は下記のとおり)の支払を求めた事案です。

要約すると、Xは、Yに対し、Yの履行遅滞を理由として契約を解除するとともに既払代金返還及び損害賠償の請求を行った一方、Yは、Xに対し、履行が遅滞した原因は大量の契約範囲外の作業を行わせた等のXの協力義務違反にあり、Yには責めに帰するべき事由がないとして、民法641条等に基づく損害賠償又は民法536条2項に基づく報酬の請求をするとともに、契約範囲外の作業について、商法512条等に基づく報酬等請求を行ったものです。
システム開発での納期遅延に関するすべての主張がなされていると言っても過言ではないでしょう。

(参考条文(※ 改正民法))

民641条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

民536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

商512条 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

時系列

H20.9.1 X・Y、XのISP事業用システムを統合した新たなシステムの企画・設計、構築等の業務を個別契約に基づき委託することを内容とする業務請負基本契約締結(以下「本件基本契約」といいます。)

本件基本契約第30条 X又はYは、相手方に損害を与えた場合、当該損害の直接の原因となった個別契約に定める契約金額の倍額を上限として通常の損害を賠償するものとする。ただし、Yの責めに帰すことができない事由から生じた損害、特別の事情から生じた損害については、Yは賠償責任を負わないものとする。
2 前項の損害には、X又はYが相手方に対し履行を求める一切の費用、訴訟等裁判手続に関する弁護士費用の相当額が含まれるものとする。
第31条第2項第2号 Xは、Yの責めに帰すべき事由により、個別契約の契約期間内に本業務を完了する見込みがないと認められるときには、Yに対する書面による通知をもって直ちに本件基本契約又は個別契約を解除することができる
第32条 Xは、Yと別途協議の上、書面による通知をもって、本件基本契約又は個別契約を任意に解除できるものとする。この場合、Xは、Yに対し、Xの責めに帰すべき事由があるとき、通常かつ直接の損害に限り、解除に伴うYの損害を賠償するものとする。

H20.10.31 Y=>X、RFP提出(以下「本件RFP」といいます。)
H21.2.27 X=Y、本件システム開発に係る要件定義書及び基本設計書の作成業務にかかる請負契約締結(納期H21.3.31、代金6835万円。以下「要件定義等請負契約」といいます。)
H21.3.31 Y=>X、要件定義等請負契約に基づき作成した要件定義書及び基本設計書納品(以下、これらを「旧要件定義書等」といいます。)
H21.7.6 X=>Y、本件システム構築に係る機器一式発注(代金1億3117万3500円。以下「原個別契約2」といいます。)
H21.7.8 X=Y、旧要件定義書等に基づく本件システムの詳細設計及び構築業務にかかる請負契約締結(納期H22.3.24、代金2億7121万3500円。以下「原個別契約1」といいます。)
H21.9.30 X=Y、Yから提出を受けた本件システムの追加開発に係る見積書及び見積機能一覧に基づく追加開発の業務にかかる請負契約締結(代金1億8378万6000円。以下「原個別契約3」といいます。)
H21.9.30 X=Y、Yから提出を受けた本件システムの追加仕様変更の詳細情報及び見積書に基づく追加開発の業務にかかる請負契約締結(代金9518万3500円。以下「原個別契約4」といいます。)
H22.2.22 X=>Y、H22.3.24までに詳細設計業務の完了の見込みがなかったため納期の延長を申入れ
H22.3.23 X=Y、Yの要件定義業務が不十分であり、基本設計業務に不具合があったこと及びこれらの事由が解消されないまま、Yが原個別契約1に基づく詳細設計業務に着手したことにより当該業務の作業効率を著しく低下させたことなど、主としてYの責めに帰すべき事由により業務が遅延したことを確認した上で、納期をH23.3.24に変更すること及び原個別契約1にかかるモバイル対応機能並びに原個別契約3にかかる一部機能の開発を業務から除外する等を内容とする変更覚書取り交わし(以下「本件変更覚書」といいます。)

本件変更覚書第3条第3項 本件基本契約31条の定めにかかわらず、Yが本件プロジェクト計画書に掲げる作業を、Yの責めに帰すべき事由により本件プロジェクト計画書で定める期限までに終了しないとき、又はYの責めに帰すべき事由により終了する見込みがないと合理的に認められ、Yから納期までに終了する見込みがあると認められる有効な改善策が提示されない場合、Xは、Yに対し、直ちに本件基本契約及び各原個別契約を解除することができる
第5条第1項本文 納期の延長に伴う費用負担について、Xは、平成22年4月1日から平成23年3月31日までの期間において、その事業のため、現行システムに新たな機能を追加することができ、その追加業務に要する費用は、Xが負担する
第2項本文 Yは、自己の責任と費用負担において、同月24日までに前項に基づきXが現行システムに追加した機能と同一の機能を本件システムに追加する
第3項 3条3項に基づき、若しくはYの責めに帰すべき事由に基づいて、Xが本件基本契約及び各原個別契約を解除した場合、又はYがその責めに帰すべき事由により、本件基本契約、各原個別契約若しくは本件変更覚書に違反した場合には、Yは、Xに対し、5条1項に定める追加業務に要する費用の相当額を支払う

H22.6.18 Y=>X、本件変更覚書に添付されていたプロジェクト計画書(以下「本件プロジェクト計画書」といいます。)に従い、再整理した要件定義書(以下「新要件定義書1.0」といいます。)を納品
H22.12.13 Y=>X、新要件定義書1.0に統計ツール等の機能を追加した要件定義書(以下「新要件定義書1.1」といいます。)を納品
H23.1.18頃 Y=>X、基本設計の完成見通しが立つH23.2末時点での再度の納期延長の申入れ
H23.2.28頃 Y=>X、Xから本件システムに関する機能内容が提示されておらず、Yの案が提示されてから検討が行われていることなどが原因で基本設計に多大な時間を要しているため、現時点で納期の見通しを回答できない旨通知した上で、Xにおいて本件システム機能内容を整理し、X内部の関係部門の合意を取った上で基本設計を進める体制とすること、基本設計の契約を準委任契約に変更することなどを要請
H23.3.3頃 Y=>X、Xにおいて「あるべき姿」を明示しないため、本件システムに係るプロジェクトの完遂が不可能である旨回答
H23.3.10頃 X=>Y、「あるべき姿」を明示する義務はないとして、かかる申入れを拒絶した上で、同月24日の納期が遅延する場合には、被告から納期変更の変更契約を申し入れるよう要請
H23.3.22頃 Y=>X、Yにおいて、本件変更覚書により合意された開発規模、機能を超過する部分の作業については、Yが義務なく行っていたものであるとして、その費用の清算を申し入れるとともに、今後、これらの超過部分の作業を停止した上で、契約の範囲内で残作業を実施する旨を通知
H23.3.25頃 X=>Y、遅くとも同年6月24日までには基本設計を完了させるとともに、同年12月24日まで本件システムを完成させるよう通知
H23.6.22頃 Y=>X、Xが「あるべき姿」の明確なイメージを持っていないため、基本設計の完了の見通しを立てることは困難であると回答するとともに、契約範囲外の作業について追加契約を締結するよう要請
H23.7.21 X=>Y、これ以上本件システムの開発業務をYに請け負わせても完成の見込みはないことを理由に、債務不履行に基づき、本件システム開発に係る契約(本件基本契約、要件定義等請負契約及び各原個別契約。以下同じ。)を解除する旨の意思表示

主な争点(一部省略)

裁判所の判断

本件システム開発の業務が遅延した原因

Yは、本件システム開発の業務が遅延した原因につき、要旨次のような点を挙げてXの協力義務違反を主張していましたが、裁判所は、Yの主張は採用できないとし、本件システム開発の業務が遅延した原因はYにあるとしました。

まず、本件システム開発の範囲につき、裁判所は、本件システム開発がウォーターフォール型の手法であったところ、一般論として、ウォーターフォール型開発での各工程における作業は、直前の工程の成果物に基づいて実施され、その作業の範囲も、当該成果物に定められると述べた上で、本件システム開発においても、詳細設計以降の工程は、新要件定義書及びこれを基に作成される基本設計書に基づき実施されることが予定され、その作業範囲もこれらにより定められる、と述べました。
そのため、裁判所は、本件システムの開発対象となる範囲は原個別契約1、3、4において明示されていた機能により画されることを前提とした、それ以外の作業の要求はすべて開発対象外であるとのYの主張につき、その前提部分から否定しています。

 「本件システム開発は、開発工程を明確に区切って各工程を順次実行して開発を進めるというウォーターフォール型の手法により行われていたものであるから、当該工程における作業は、直前の工程の成果物に基づいて実施されることになるため、その作業の範囲も、直前の工程の成果物により定められることになる。」
 「本件システム開発において、詳細設計以降の工程については、新要件定義書及びこれを基に作成される基本設計書に基づいて実施されることが予定されていたと認められ、その作業の範囲もこれらにより定められることになる。もとより、このように解されるとしても、詳細設計以降の業務について、原個別契約1、3、4に含まれない機能を追加する場合には、改めて追加の個別契約を締結するなどして追加代金を定めることを要するものと解されるが、このことと開発の範囲(スコープ)は別個の事柄であり、上記のとおり不完全な旧要件定義書等に基づいて締結された個別契約によって開発の範囲が画されるものでないのはいうまでもない。実際には、その後、本件システム開発は、基本設計が完了しないままXにより契約の解除がされたことから、本件変更覚書締結後の詳細設計以降の業務については、上記のような追加の個別契約も締結されることなく開発自体は終了したものであるが、それまでに実施された基本設計の作業は、その前工程の成果物である新要件定義書によりその範囲が定められることになる。また、新要件定義書の作成作業は、その前段階で本件システム開発に関するXの要望が整理された本件RFP及びこれを踏まえてYが本件システム開発を受注するために作成した本件提案書等によりその範囲が定められるのであり、ユーザーの要望を聴取しながらこれらの機能を明確化していくという要件定義の性質上、その契約の範囲が当該業務の結果整理された機能により画されると解することはできない。この点、Yは、要件定義等請負契約において、これらの業務を定額の代金で一括して請け負ったものである以上、その範囲内にある作業を実施する限度においては、それが当初の想定を上回るものであるとしても、直ちに契約の範囲外のものということはできず、これについて追加代金が発生することにはならないと解する。
 以上によれば、本件システムの開発の対象となる範囲は、原個別契約1、3、4において明示されていた機能により画されることを前提として、これらに含まれない作業の要求は、全て開発の範囲外のものであるというYの主張は、その前提を欠くものである。」

また、裁判所は、新要件定義書1.1で追加された統計ツール等の機能にかかる作業要求につき、要旨下記の各点を指摘した上で、当該作業要求によって本件システム開発業務が大幅に遅れたと認めることはできないとしました。

 「統計・カスタマツールは、もともとは現行システムを補助するために独自に使用していた外部ツールに当たるものであるが、新要件定義書1.1において整理された当該機能の内容に照らしても、YがISP事業を営む上で必要不可欠なものであることは明らかであり、その機能の個数や開発の方法(既存のパッケージソフトを用いるか、オーダーメイドで独自に開発するかなど)は当初の段階では確定していなかったとしても、本件システム開発においてその対象に含める必要があることについては、RFPの作成過程で現行業務や現行システムを分析した上でその開発業務を請け負ったYにおいても、これを認識していたものと認められる。これについては、前記認定事実……のとおり、XがYに対しRFPの作成を依頼した際にカスタマ部門からの要望を集約して提供した資料にも同ツールについての要望が含まれていたことやこれを踏まえYにおいて作成した本件RFPや本件提案書にも、統計・カスタマツールに含まれるエスカレーション機能や統計管理機能の実装について記述されていたことからも明らかである(この点、これらの機能が統計・カスタマツールに含まれるものではないというYの主張は、実際には、これらの機能が新要件定義書1.0には含まれておらず、最終的に統計・カスタマツールの取り込みのために作成された新要件定義書1.1において整理されたものとみられることからも認め難い。)。
 他方、前記認定事実によれば、その後、エスカレーション機能については、平成21年9月に原個別契約3が締結された際に、その開発の対象から一旦除外されていたほか、統計機能についても、Xが平成22年3月10日にYから同機能を約1億9600万円の費用で構築する旨の提示を受けた際、Yに対し、その取扱いについて保留とするよう申し入れていたところ、同月23日に締結された本件変更覚書においても、こうした統計・カスタマツールに当たる機能の開発は、その当時のスコープ(プロジェクトのベースライン)外であると位置づけられたのである。しかし、その経過に照らすと、これらの機能の開発については、機能数の増加や費用等を踏まえ、追って整理することを予定して、難航していた本件システム本体の開発を優先するため、プロジェクトのベースラインから一旦外したものにすぎず、開発の対象から完全に除外されたものとまでは認め難い。このことについては、その後、Yにおいても、同年6月18日に予定どおり新要件定義書1.0が完成するや同月22日のステアリングコミッティで統計ツールを新要件定義書1.1で取り込むことを自らXに提案していた上、その後、同年9月に、Xからカスタマツールの整理が遅れている理由について問われた際も機能数が増加したため時間を要したと回答していたにとどまり……、同年12月にはこれらを整理した新要件定義書1.1を完成させながら、その間、これらが開発の対象外であると申し出ていた形跡がみられないことからも明らかである。」
 「また、統計・カスタマツールは、本件システム本体と連携しないものとされていたことから、Yは、本件システム本体の基本設計の業務と同時並行で、これとは別のチームにおいて、同ツールの要件定義の作業を進めていたのであり、前記の経過によれば、こうした機能数の増加や開発方法の確定のため、その整理に時間を要したことがうかがわれるものの、平成22年12月には同ツールを追加で整理したものとして新要件定義書1.1が完成したのである。この点、統計・カスタマツールの開発に伴い既に新要件定義書1.0で整理していた業務フローの手直し作業が発生したとしても、これ自体が直ちにそれ以降の基本設計の業務を大幅に遅延させるものであったとは認め難い。前記認定に係る経過からも、統計・カスタマツールを開発の対象に含めたことが、本件システム本体の開発が頓挫した原因であるとは認め難い。
 これらによれば、統計・カスタマツールが開発範囲外の作業であって、YがXからかかる作業を要求されたことにより本件システム開発の業務が大幅に遅れたと認めることはできない。」

裁判所は、XのYに対する新要件定義書1.0の作成過程における作業要求についても、これが契約範囲外の作業要求ではないと述べました。

 「新要件定義書1.0は、Yにおいて当初作成した旧要件定義書等が不完全なものであったため、これを再整理するものとして作成されたものであるから、この作業自体が契約範囲外のものということができない
 Yにおいて新要件定義書1.0を完成させた後にXに対し提示した追加費用整理書面……は、その記載内容からすると、新要件定義書1.0の作成の過程において、本件変更覚書においてスコープとされた原個別契約1、3、4に含まれない要件が新たに挙げられたことをもって追加費用の発生を指摘するものとみられるが、上記のとおり詳細設計以降の工程についてはこれらが追加代金発生の対象となるとしても、一括で請け負った要件定義の作業として、上記のような過程で、これらの事項を追加で整理することになったこと自体は、直ちに当該契約の範囲外のものということはできないのであり、同書面で示された追加費用も、その記載内容等に照らすと、詳細設計以降の工程に係る費用とみられる。
 また、Yは、追加費用整理書面において、これらの事項を開発の対象に含めることについて追加費用が発生することは指摘しつつ、これにより納期が延びる可能性があることまでは言及しておらず、前記認定に係る経過からも、これらの事項を開発の対象に含めたことがその後の業務を遅延させる原因となったものとは認め難い。
 これらによると、Yが新要件定義書1.0の作成過程においてXから契約範囲外の作業を要求されたことにより、本件システム開発の業務が大幅に遅れたと認めることはできない。」

裁判所は、XのYに対する基本設計における契約範囲外の作業要求についても、そもそもYが主張するような大きな方針変更があったと認められないとして、Yの主張を否定しています。

 「基本設計において、Yが主張するような大きな方針変更があったと認められないことは後記……で説示するとおりであるから、Xにより、かかる方針変更がされたことにより大量の契約範囲外の作業をさせられたため作業が大幅に遅延したというYの主張は、その前提を欠くものである。」

裁判所は、Xが代金支払を拒絶したことにつき、Yが契約の範囲外と主張している作業は、一括でYが請け負った要件定義及び基本設計の業務であり、直ちに契約の範囲外の作業であるとは認めがたいものであるから、Xが支払拒絶という対応をしたことが非難されるものではなく、また、仮に追加費用の清算をするのが相当であるものが含まれていたとしても、YがXに対してあらかじめ見積書を交付する等して、追加開発の範囲や費用にかかる協議の機会を設けることなく、一方的に作業停止の通告を行ったことは、ベンダーの対応としては相当性を欠くと述べました。

 「Yは、平成23年1月以降に、納期までに完成できないとして、Xに様々な要請をしてこれを拒絶されるなどのやり取りを重ねた後、その納期の2日前である同年3月22日の時点で、初めて、Xに対し、本件変更覚書の際に合意した契約の範囲を大幅に超過する作業を行ってきたなどと告げた上で、その追加の範囲や費用を示すことなく、一方的にこれらの作業の停止を通告するとともに当該費用の精算を求める文書を送付したのである。しかし、実際には、Yが契約の範囲外であったと主張する作業は、一括で請け負った要件定義及び基本設計の業務であり、直ちに当該契約の範囲外のものであったと認め難いことは上記説示のとおりであるから、Xにおいてその支払を拒絶する対応をしたことが直ちに非難されるものではない。仮に、これらの作業の中に当該契約の範囲を超えて別途追加費用の清算をするのが相当なものが含まれていたとしても、Yが、Xに対し、あらかじめこれらについて見積書を交付するなどして、当該追加の範囲や費用を明示した上で協議の機会を設けることもなく、一方的に上記のような作業の停止を通告したことは情報システム開発業者の対応として相当性を欠くものであったといわざるを得ない。」

Xが基本方針の不合理な変更を繰り返したか否かについて、裁判所は、要旨次のような点を挙げ、これを否定しています。

 「以上によれば、本件システム開発が基本設計の段階で頓挫したのは、Xが基本方針の不合理な変更を繰り返したことによるものであったと認めることはできず、この点において、Xに協力義務違反があったということはできない。」

その他、裁判所は、Xが本件システム開発に必要な協力を果たさなかったというYの主張についても退けています。
一部のみ引用しますが、裁判所は次のようなことを述べています。

 「本件システム開発においては、YがXの現行業務及び現行システムを調査、整理した上で、Yが主体となって基本設計の業務を行い、Xのレビューにより承認を得るという手法で開発を進めることについては、Y自身が作成した本件プロジェクト計画書で定められていたのであり……、WBS一覧においてもこれを前提とした役割分担が定められていたのである。また、Yにおいて、Xの現行業務及び現行システムを踏まえ、要件定義及び基本設計を行う上で、ISP事業者としていかなる構造及び仕様のシステムを開発すべきかについて提案することも業務の内容に含まれていたことは前記説示のとおりである。また、Yが指摘する「あるべき姿」とは、コアシステムを指すものとみられる……が、コアシステム自体は既に新要件定義書1.0で整理されていたものであること……に加え、新要件定義書1.0作成後の基本設計段階においてXがコアシステムの「あるべき姿」を提示しなかったとの主張は、開発方針がXによって不合理に変更されたことを前提とするものであるところ、同事実が認められないことは、前記……において説示したとおりである。その他Yが書面で要求した協力事項……は、上記のとおり多岐にわたるものであるが、その中には、本件プロジェクト計画書で定められたXとYの上記役割分担を改めるというだけでなく、詳細設計書をXのレビュー、承認の対象外とすることなど、Xが到底受け入れられない内容のものも含まれていたのである。これらによると、Xがこのような要求を拒否する態度をとったことは致し方のないところであり、Yが納期の直前となり、納期の再延長を得るため、Xとの事前の協議なく書面でこのような要求をした上で、これを拒絶したXに対し、完成までの見通しやスケジュールを示すことを拒否したことは、情報システム開発業者の対応として相当性を欠くものであったといわざるを得ない。」

Yに帰責事由があったか否かについても、裁判所は、本件変更覚書前後にわたる各開発頓挫の責任は、X側にまったく問題がなかったとまでは言えずとも、Yの業務遂行が不適切だったことや対応が不相当であったことが認められることからすれば、Yに帰責事由がなかったとは言えないとし、Yは本件システム開発の頓挫にかかる債務不履行責任を免れるものではないとしました。

 「これらによると、本件システム開発が本件変更覚書による変更後の納期を経過しても、基本設計が完了せず、完成の見込みがないまま頓挫したことについて、Yの責めに帰すべき事由がなかったと認めることはできず、Yは、債務不履行責任を免れるものではないと解するのが相当である。」

X=>Yの本件システムに係る費用等の損害金等の支払義務の有無、契約解除の範囲

まず、契約範囲内の作業につき、裁判所は、本件システム開発頓挫にかかるYの債務不履行が成立するため、Xによる解除は債務不履行に基づくものとして有効であり、これが民法641条や本件基本契約32条に基づくものを前提としたYの請求は失当であるとしました。

 「本件システム開発が頓挫したことについて、Yの債務不履行が成立するから、Xがした当該契約の解除は、Yの債務不履行に基づくものとして有効であると解する。そうすると、上記解除権の行使が民法641条又は本件基本契約32条に基づくものであることを前提としてXにおいて損害賠償責任を負い、Yの報酬請求権が失われないというYの主張は、その前提を欠くものであり、失当である。」

そして、裁判所は、契約解除の範囲につき、詳細設計以降の業務にかかる各原個別契約は、基本設計が完了に至っておらず、契約も解除されたため、XのYに対する代金支払債務が消滅する一方、要件定義及び基本設計の業務にかかる各原個別契約は、要件定義は完了して成果物が完成し、他方で基本設計は成果物も未完成であったものの、これらの成果物をXが有効に活用することができたことは否定できず、Xはその限度でこれら成果物の引渡しを受けることについて利益を有すると認められるため、その限度で解除の効力は及ばないとしました。 なお、出来高は、7割と認定されています。 これは、民法634条柱書と同様の処理です。

第634条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
 一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
 二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

 「本件システム開発に係る契約のうち、詳細設計以降の業務に係る各原個別契約については、前記のとおり、本件変更覚書締結後、Yの債務不履行により、その前工程である基本設計が完了に至らないまま、Xによって契約解除がされたのであるから、Xの代金支払債務は消滅したと解される。
 他方、要件定義等請負契約についてみると、前記認定事実によれば、このうち要件定義の業務は、新要件定義書の完成をもって完了したものであり、基本設計の業務は、契約解除時点で未だ基本設計書に備えられていなかった「詳細機能編」、「運用編」、「移行編」のほか、前記認定に係る経過から未だ業務が完了していなかったとみられる「業務編」を除いては概ね完了していたものと認められる。この点、Xは、Yから新要件定義書の納品を受けながら、上記解除後、これらをYに返送したほか、基本設計書についても、上記解除に当たり、未完成であることを理由として受領を拒絶したものであるが、要件定義の成果物である新要件定義書はもちろん、未完成の基本設計書についても契約終了時点で上記のとおり部分的に完了した限度でその成果物の引渡しを受けていれば、Xにおいて、他の業者に対して再度当該業務を発注する際に、上記成果物をそのまま引き継いで残りの業務を行うことが困難であるとしても、これらを有効に活用することができたことは否定できず、上記成果物の引渡しを受けることについて利益を有するものであると認められるから、その限度で契約の解除の効力が及ばないと解するのが相当である。要件定義等請負契約の定める要件定義及び基本設計の業務のうち、上記成果物に係る部分に相当する出来高は、これらの内容等に照らし、7割を下回るものではないと認めるのが相当である。」

次に、契約範囲外の作業につき、裁判所は、そもそも契約範囲外の作業がなかったとして、これにかかる追加報酬や損害の発生を否定しています。

 「Yにおいて行った新要件定義書の作成業務について、一括で請け負った要件定義等請負契約の範囲外のものが含まれていたということはできないから、これらについてYが主張するような追加報酬や損害が発生するものではないと解するのが相当である。」
 「Yにおいて、基本設計書の作成業務についても、一括して請け負った要件定義等請負契約の範囲外のものが含まれているということはできないから、これらについてYが主張するような追加報酬や費用等の損害が発生するものではないと解するのが相当である。」

Xの損害

裁判所は、システム再調達費用、現行システムに対する追加工数費用の一部、Yに対する支援業務に係る費用は債務不履行と相当因果関係がないとし、現行システムの維持費用と現行システムに対する追加工数費用の残部についての合計1億8233万1707円をXの損害額と認めました。
なお、裁判所は、システム再調達費用に関しXが引用した、工事の請負契約にかかる判例である最判昭和60・5・17集民145-13につき、次のように述べ、本件とは事案を異にするとしています。

 「Xが引用する最高裁判所昭和60年5月17日第2小法廷判決・裁判集民事145号13頁は、工事の請負契約において、仕事が完成に至らないまま契約関係が終了した場合に、請負人が施工済みの部分に相当する報酬に限ってその支払を請求することができるときには、注文者は、上記契約関係の終了が請負人の責めに帰すべき事由によるものであり、請負人において債務不履行責任を負う場合であっても、注文者が残工事の施工に要した費用については、請負代金中未施工部分の報酬に相当する金額を超えるときに限り、その超過額の賠償を請求することができる旨判示したものである。同判決の事案は、いわゆるウォーターフォール型の手法で行われる情報システムの開発について、注文者であるXが従前の請負の既施工部分に相当する要件定義書を利用することなく、最初の工程である要件定義から改めて開発を注文した上、両システムの同一性が認められる範囲も判然としない本件とは、事案を異にするものである。したがって、上記最判は、Xの主張を理由付けるものとは認められない。」

その上で、裁判所は、本件システムの開発頓挫については、Xにも相応の過失があったとして、Xの過失を4割とした上で過失相殺をしています。

 「以上によれば、Xの損害額は、合計1億8233万1707円となるところ、本件システム開発が基本設計の段階で頓挫したことについて、Xにおいても、相応の過失があったことは前記説示のとおりであるから、Yにおいて賠償すべき損害額を定めるに当たり、過失相殺として、これを斟酌することとし、前記の諸事情に照らし、その過失割合を4割と認めるのが相当である。そうすると、過失相殺後の損害額は、1億0939万9024円……となる。」

これに弁護士費用にかかる損害額として1000万円が認められ、XがYの債務不履行によって被った損害額は、合計1億1939万9024円となりました。

まとめ等

かなり長くなってしまいましたが、ざっくりまとめると以上となります。

プロジェクト頓挫の場面でなされる主張がほとんどすべて出ている事案ではないでしょうか。
訴訟期間は約5年でして、複雑なシステム開発訴訟にはかなりの期間を要すると改めて感じるところです。

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