弁護士 野溝夏生

プロジェクトを中断しなければならなくなった場合

プロジェクトを中断しなければならなくなった場合、その契約を解除することとなるのが通常でしょう。
また、相手方に損害賠償請求をすることもよくあるケースです。
その際、中断の原因が何にあるのか、という点が非常に重要となってきます。

損害賠償や解除については別途記載することとして、ここでは、中断の原因を基礎づけるベンダとユーザの役割分担について、主に述べていくこととします。

ベンダとユーザの役割分担

プロジェクトを中断しなければならなくなった原因の一つとして、ベンダやユーザの一方又は双方が、なすべき役割を果たしていないことが挙げられます。
裁判等において、各自が自らの義務を果たしたか否かが重要な争点とされているケースは多々見受けられます。
裁判例上、ベンダが果たさなければならない役割については「プロジェクトマネジメント義務」、ユーザが果たさなければならない役割については「協力義務」とされています。

ベンダはソフトウェア開発の専門家であり、ユーザに対して、ソフトウェア開発等における知識や経験等の点で優位に立っています。
他方、ベンダは、ユーザが希望するソフトウェアの開発に従事するのですから、ユーザは、ベンダに対して、ソフトウェアが用いられる業務等における知識や経験等の点で優位に立っています。

すなわち、ソフトウェア開発においては、それぞれが有している知識や経験等をプロジェクトに反映する必要があります。
ベンダはベンダの役割を、ユーザはユーザの役割を果たさなければ、そのプロジェクトの中断を余儀なくされることにもつながりかねません。

東京高判平成25・9・26金判1428-16も、ソフトウェア開発におけるベンダとユーザの役割につき、次のように述べています。

東京高判平成25・9・26金判1428-16
 「ベンダとユーザーの間で、システム完成に向けた開発協力体制が構築される以前の企画・提案段階においては、システム開発技術等とシステム開発対象の業務内容等について、情報の非対称性、能力の非対称性が双方に在するものといえ、ベンダにシステム開発技術等に関する説明責任が存するとともに、ユーザーにもシステム開発の対象とされる業務の分析とベンダの説明を踏まえ、システム開発について自らリスク分析をすることが求められるものというべきである。」

ベンダに課せられるプロジェクトマネジメント義務

プロジェクトマネジメント義務について述べた代表的な裁判例である東京地判平成16・3・10判タ1211-129によると、プロジェクトマネジメント義務とは、次の義務を総称したものを指します。

同裁判例によると、プロジェクトマネジメント義務の内容は、具体的には次のとおりとなります。

このプロジェクトマネジメント義務は、東京高判平成25・9・26金判1428-16において、契約締結前の企画・提案段階においても課せられることが明言されています。
ただし、「企画・提案段階の計画どおりシステム開発が進行しないこと等をもって、直ちに企画・提案段階におけるベンダのプロジェクトマネジメントに関する義務違反があったということはできない」とされていることには注意が必要です。

また、東京高判平成25・9・26金判1428-16は、プロジェクトマネジメント義務につき、次のようにも述べています。

東京高判平成25・9・26金判1428-16
 「システム開発は必ずしも当初の想定どおり進むとは限らず、当初の想定とは異なる要因が生じる等の状況の変化が明らかとなり、想定していた開発費用、開発スコープ、開発期間等について相当程度の修正を要すること、更にはその修正内容がユーザーの開発目的等に照らして許容限度を超える事態が生じることもあるから、ベンダとしては、そのような局面に応じて、ユーザーのシステム開発に伴うメリット、リスク等を考慮し、適時適切に、開発状況の分析、開発計画の変更の要否とその内容、更には開発計画の中止の要否とその影響等についても説明することが求められ、そのような説明義務を負うものというべきである。」

さらに、東京高判平成26・1・15裁判所Webサイトは、プロジェクトマネジメント義務には次の義務も含まれているとします。

ユーザに課せられる協力義務

冒頭で引用した東京高判平成25・9・26金判1428-16が述べるように、ソフトウェア開発は、ユーザがベンダに丸投げするのみでは成立しません。

このことにつき、札幌高判平成29・8・31裁判所Webサイト(旭川医科大学vsNTT東日本事件)も次のように述べています。

札幌高判平成29・8・31裁判所Webサイト(旭川医科大学vsNTT東日本事件)
 「システム開発はベンダである一審被告の努力のみによってなし得るものではなく、ユーザである一審原告の協力が必要不可欠であって、一審原告も、一審被告による本件システム開発に協力すべき義務を負う……。そして、この協力義務は、本件契約上一審原告の責任とされていたもの(マスタの抽出作業など)を円滑に行うというような作為義務はもちろん、本件契約及び本件仕様凍結合意に反して大量の追加開発要望を出し、一審被告にその対応を強いることによって本件システム開発を妨害しないというような不作為義務も含まれているものというべきである。」

具体的な内容としては、東京地判平成16・3・10判タ1211-129が次のように述べていることが参考になります。

東京地判平成16・3・10判タ1211-129
 「オーダーメイドのシステム開発契約では、受託者(ベンダー)のみではシステムを完成させることはできないのであって、委託者(ユーザー)が開発過程において、内部の意見調整を的確に行って見解を統一した上、どのような機能を要望するのかを明確に受託者に伝え、受託者とともに、要望する機能について検討して、最終的に機能を決定し、さらに、画面や帳票を決定し、成果物の検収をするなどの役割を分担することが必要である。」

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