弁護士 野溝夏生

東京高判令和2・11・5(DeNAモバゲー利用規約差止め控訴審)

はじめに

DeNAが運営する「モバゲー」の利用規約の免責条項につき、さいたま地判令和2・2・5は、その一部が消費者契約法に反しているとして、利用規約の当該部分の利用の差止めを認めていました。
そして、控訴審判決である東京高判令和2・11・5においても、第一審判決を維持し、利用規約の免責条項の一部につき、消費者契約法違反を理由とする当該部分の利用の差止めを認めました。

事案の概要や第一審判決の内容については、以下のエントリをご覧ください。

裁判所の判断

DeNA側は、第一審判決を受け、利用規約の一部を次のように改正(改正部分強調)していました。

第7条 モバゲー会員規約の違反等について
1 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
a. (略)
b. (略)
c. 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合
d. (略)
e. その他、モバゲー会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合
2-3 (略)

利用規約第7条第3項について~控訴審判決による第一審判決の改正の観点から~

東京高判令和2・11・5は、さいたま地判令和2・2・5が利用規約7条1項c号について述べていた点につき、次のように改めています。
これは控訴審段階において、Yが前述のとおり利用規約の改正を行ったことを考慮したものです。
もっとも、「当社が判断」が「当社が合理的に判断」に改正されたとしても、結論としては、その文言が不明確であることには何ら変わりがないとされています。

東京高判令和2・11・5
「すなわち、Yは、上記の『合理的な判断』を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性には合理性がなく会員に対する不法行為又は債務不履行を構成するような会員資格取消措置等を『合理的な判断』であるとして行う可能性が十分にあり得るが、会員である消費者において、訴訟等において事後的に客観的な判断がされた場合は格別、当該措置が『合理的な判断』に基づかないものであるか否かを明確に判断することは著しく困難である」

さいたま地判令和2・2・5
「すなわち、上記要件の文言からすると、Yは上記の『判断』を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地があるのであって、上記の『判断』が『合理的な根拠に基づく合理的な判断』といった通常の裁量の範囲内で行われると一義的に解釈することは困難であると言わざるを得ない」

また、Yは、前述のとおり、利用規約7条1項の各号の定めはごく一般的なものであるとして、他企業の各種サービスにかかる規約を提出する等していました。
これについて、第一審は、他企業の規約には「合理的な判断」等の文言が明示されているか、又は例示が多数挙げられているのに対し、本件の利用規約のような文言のみをもって、例示を伴うことなく契約解除事由等としているものはないという理由で、Yの主張を排斥していました。
他方、控訴審は、第一審が「合理的な判断」といった文言の有無や例示列挙の有無について着目していたのとは異なり、責任免除規定の有無、消費者が損害を被る蓋然性の高低、差止請求と消費者契約法違反の関係性の有無の観点から、次のとおり、Yの主張を否定しています。
他企業の規約が消費者契約法に違反していないとは必ずしも言えないので、他企業のサービスにかかる規約にもそのような文言があるとの事実は、利用規約の内容の明確性にかかる判断を何ら左右するものではない、ということかと思われます。

東京高判令和2・11・5 「この点に関し、Yは、他の企業の規約の中には『当社が判断した場合』などの文言を含む条項がある……旨主張するが、Yが指摘する規約の中には、上記条項に関する責任免除規定がないもの、上記条項によって消費者が損害を被る蓋然性が低いものがあるほか、現時点で差止請求がされていないことをもって法に違反していないとはいえないから、『当社が判断した場合』などの文言を含む他の企業の条項があるからといって、Yの本件規約7条1項c号及びe号の内容が著しく不明確であるとの上記判断を左右しない。」

さいたま地判令和2・2・5
「この点に関連して、Yは、上記各号のように『当社が判断した場合』との文言の条項は、ごく一般的なものであるとして、他の企業における各種の会員サービスに係る規約を提出する……。
しかし、それらの規約の条項の中には、利用資格失効等の措置をとる場合には『合理的な理由に基づく判断』又は『合理的な判断』を行う旨の文言を明示しているものがあり……、また、『合理的な理由に基づく判断』又は『合理的な判断』を行う旨の文言はないが、例示が多数挙げられているもの……も見受けられる。他方、本件契約のように、会員相互間の関係を生じるサービスに係る規約において『他の会員に不当な迷惑をかけた』といった文言のみをもって、例示を伴うことなく契約の解除事由等としているものは見当たらない。このように、Yが提出した規約の例をみても、上記各号のような定め方が一般的であるとまではいえない。」

また、控訴審は、Yの本件規約7条3項はYが損害賠償責任を負わない場合にこれを負わないことを確認的に規定したものであって免責条項ではない旨の主張に対し、次の理由から、そのような確認規定であると解釈することは困難としています。

東京高判令和2・11・5
「……本件規約7条3項には、単に『当社の措置により』との文言が用いられ、それ以上の限定が付されていないところ、前記説示したとおり、会員において、同条1項c号及びe号該当性につき明確に判断することは、極めて困難である。さらに、同条3項が『一切損害を賠償しません。』と例外を認めていないことも併せ考慮すると、同項については、契約当事者(Y及び会員)の行為規範として、Yが不法行為等に基づく損害賠償責任を負わない場合について確認的に規定したものと解することは困難である。」

さいたま地判令和2・2・5
「……上記各号(註:本件規約7条1項c号及びe号)の文言から読み取ることができる意味内容は、著しく明確性を欠き、複数の解釈の可能性が認められ、被告は上記の『判断』を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地があることは、上記……で判示したとおりである。
そして、本件規約7条3項は、単に『当社の措置により』という文言を使用しており、それ以上の限定が付されていないことからすると、同条1項c号又はe号該当性につき、その『判断』が十分に客観性を伴っていないものでも許されるという上記の解釈を前提に、損害賠償責任の全部の免除を認めるものであると解釈する余地があるのであって、『合理的な根拠に基づく合理的な判断』を前提とするものと一義的に解釈することは困難である。 」

控訴審におけるYの主張に対する判断

Yは、第一審と同様、Yの本件規約7条3項はYが損害賠償責任を負わない場合にこれを負わないことを確認的に規定したものであって免責条項ではない旨を、控訴審においても主張していました。
しかし、裁判所は、次の理由から、Yは本件規約7条3項によって損害賠償義務が免除されると主張し得ると述べています。

「Yは、本件規約7条3項はYが損害賠償責任を負わない場合にこれを負わないことを確認的に規定したものであって、免責条項ではない旨主張する。
しかし……本件規約7条1項c号及びe号にいう『合理的に判断した』の意味内容は極めて不明確であり、Yが『合理的な』判断をした結果会員資格取消措置等を行ったつもりでいても、客観的には当該措置等がYの債務不履行又は不法行為を構成することは十分にあり得るところであり、Yは、そのような場合であっても、本件規約7条3項により損害賠償義務が全部免除されると主張し得る。」

また、Yは、Yが客観的に損害賠償責任を負う場合、そもそも本件規約7条1項c号及びe号の適用がないから、同条3項による免責の余地はないと主張していました。
しかし、裁判所は、次の理由から、そのような主張は最終的に訴訟において争われる場面には妥当しても、消費者契約法の不当条項の解釈としては失当と述べ、当該主張を排斥しています。

「Yは、Yが客観的に損害賠償責任を負う場合は、そもそも本件規約7条1項c号又はe号の要件を満たさず、したがって、本件規約7条3項により免責されることもないと主張する。しかし、事業者と消費者との間に、その情報量、交渉力等において格段の差がある中、事業者がした客観的には誤っている判断が、とりわけ契約の履行等の場面においてきちんと是正されるのが通常であるとは考え難い。Yの主張は、最終的に訴訟において争われる場面には妥当するとしても、消費者契約法の不当条項の解釈としては失当である。

Yは、一般的に契約条項について合理的限定解釈が許されている等の主張もしていました。
しかし、とりわけこの点について、裁判所は、消費者契約法3条1項1号により、事業者は、消費者契約の内容につき、その解釈に疑義が生じない明確なもので、かつ、平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負う、と述べました。
事業者にかかる義務があると言及した点は、本判決において注目されるべきと考えられます。

「Yは、①一般に合理的限定解釈は許されること、②本件規約7条1項c号及びe号には多数の例示が示されていること、③他の企業においても「合理的な判断」との条項の意味内容につきトラブルが生じていないことからすると、本件規約7条1項c号及びe号の意味内容は明確である旨主張する。
しかし、上記①については、事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負っているのであって(法3条1項1号)、事業者を救済する(不当条項性を否定する)との方向で、消費者契約の条項に文言を補い限定解釈をするということは、同項の趣旨に照らし、極力控えるのが相当である。また、上記②については、控訴人が主張する例示……によっても、本件規約7条1項c号及びe号該当性が明確になるものとは解し難い。上記③についても、控訴人が主張するとおり、他の企業において、『判断』、『合理的な判断』といった条項の意味内容につきトラブルが生じていないとしても、そのことをもって、本件規約7条1項c号及びe号の『合理的な判断』の意味内容が明確であることを意味するものではない。」

まとめ等

前記利用規約や前記回答書を見るに、Yも、消費者契約法におけるリスクは十分理解していたことが窺われます。
すなわち、Yに故意重過失があれば免責条項は適用されずに損害賠償を行い、また、軽過失であれば1万円の限度で損害賠償を行います、といういわば逃げ道も用意していたことになります。
また、控訴審の段階では、第一審判決を受け、「合理的に判断」という文言へと利用規約の改正まで行っていました。

今回の裁判例が出た結果、B2Cサービスを提供し、これに伴い当該サービスにかかる利用規約を設ける事業者につき、当該利用規約の文言が不明確にならないよう、また、消費者にとって平易な利用規約となるよう、注意を払う必要があります。

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