弁護士 野溝夏生

さいたま地判令和2・2・5(DeNAモバゲー利用規約差止め)

事案の概要

本件は、適格消費者団体である原告(X)が、DeNA(Y)に対し、Yが運営するポータルサイト兼SNSサービスである「モバゲー」内においてYから提供されるサービスを利用する際の利用規約の一部の条項につき、消費者契約法に反する条項を利用し、または利用するおそれがあることから、消費者契約法12条3項に基づき、当該利用規約のうち消費者契約法に反する部分の利用の差止めを求めた事案です。

原告が差止めを求めた対象となる条項及びその理由は、それぞれ以下のとおりです。 (判決によると、DeNA側が一部規約文言の修正を行った結果、Xがこれにかかる訴えの一部を取り下げているため、当該部分は除外しています。)
なお、それぞれ引用元は次のとおりとなります。

第7条 モバゲー会員規約の違反等について
1 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
 a. 会員登録申込みの際の個人情報登録、及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において、その内容に虚偽や不正があった場合、または重複した会員登録があった場合
 b. 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
 c. 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合
 d. 本規約及び個別規約に違反した場合
 e. その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合
2 当社が会員資格を取り消したモバゲー会員は再入会することはできません。
3 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は一切損害を賠償しません。

(同条3項が差止めの対象となる理由について)当社の措置をとる事由として、同条1項に「c.他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」「e.その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」を含む5つの事由が列挙されていますが、「措置」をとるにあたって、その故意過失に基づき誤った判断をし、その結果、会員に損害を与える事態が生じた場合などを除外することなく、文言上、被告が一切損害を賠償しなくともよいという規定となっており、消費者契約法8条1項1号、3号に抵触する。

第12条 当社の責任
2 モバゲー会員は自らの責任に基づいて本サービスを利用するものとし、当社は本サービスにおけるモバゲー会員の一切の事項について何らの責任を負いません。
3 モバゲー会員は法律の範囲内で本サービスをご利用ください。本サービスの利用に関連してモバゲー会員が日本及び外国の法律に触れた場合でも、当社は一切責任を負いません。
4 本規約において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は1万円を上限として賠償します。
5 当社は、当社の故意または重大な過失によりモバゲー会員に損害を与えた場合には、その損害を賠償します。

(同条4項が差止めの対象となる理由について)1万円の支払い対象として、「本規約において当社の責任について規定していない場合」との条件を付しており、そうすると、本件利用規約内で責任を規定している条項、すなわち「一切責任を負わない」と規定している上記条項(同4条3項、7条3項、10条1項)1万円の賠償対象とならないと解釈できる。したがって、同項はその前段部分「本規約において当社の責任について規定していない場合」について、消費者契約法8条1項1号、3号に抵触する。

なお、Yは、本件が訴訟係属する以前におけるXからの指摘に対し、次のように回答しており、訴訟でも同様の反論を行ったものと思われます。(DeNA「2016年12月21日付回答書」(PDF))

 「弊社の故意又は重大な過失による債務不履行及び不法行為については、損害賠償責任を負いますし、弊社の軽過失による債務不履行及び不法行為については、1万円を上限として損害賠償責任を負います。」

利用規約の消費者契約法に関するリスク

利用規約について、消費者契約法との関係で考えられるリスクは、大きく次の2点と言えます。

B to Cのサービスにおける利用規約については、消費者契約法の適用があることになります。
そのため、一方的に消費者に不利益な条項は無効とされる可能性がありますし、責任免責条項もその一例となります。
免責条項に関していえば、消費者契約法は次のとおり定めています。

利用規約について、適格消費者団体からの何らかの申入れや訴訟提起がなされると、通常、すべてのやりとりが、訴訟係属前のものも含め、Web上に公開されることとなります。
また、そもそも、消費者契約法に反する利用規約を定めているサービスないしこれを運営する企業は、「遵法意識を欠いている」という評価を受けることにもなりかねません。
現在、多くの人がSNSを利用していますが、その情報拡散力はすさまじく、ひとたびマイナス情報が拡散すれば、サービスや企業の評判が低下する可能性も非常に高いですから、レピュテーションリスク(評判リスク)にも配慮することが必要不可欠な時代となっています。

裁判所の判断

まず、裁判所は、消費者契約法の趣旨及び目的と第3条について、次のように述べます。

 「法は、消費者と事業者との間に存する契約の締結、取引に関する情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の債務不履行等により生じた損害賠償の責任を免除する条項等の全部又は一部を無効とすることを定める(法1条参照)。そして、その趣旨、目的を徹底するため、事業者は、消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮する努力義務を定めている(法3条1項1号)。」

消費者契約法第3条 事業者は次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。
 一 消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること。

次に、契約条項の不明確性と差止請求の根拠である法12条3項との関係について、次のように述べます。

 「ところで、……差止請求は、その対象となる消費者契約の中に、法8条から10条までに規定する消費者契約の条項(以下「不当条項」という。)が含まれていることがその要件とされているところ、この不当条項該当性の有無を判断するに当たっては、その前提として、当該消費者契約の中の特定の条項の意味内容を定める必要が生じる。
 この点、……法は、消費者と事業者とでは情報の質及び量並びに交渉力に格差が存することに照らし、法3条1項において、事業者に対し、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なものであって、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮することを求めていることに照らせば、事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、当該条項につき、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残ることがないように努めなければならないというべきである。
 加えて、差止請求制度は、個別具体的な紛争の解決を目的とするものではなく、契約の履行などの場面における同種紛争の未然防止・拡大防止を目的として設けられたものであることをも勘案すると、差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈が認められる場合において、事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがられるなど、当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは、法12条3項の適用上、当該条項は不当条項に該当すると解することが相当である。」

利用規約第7条第3項について

実際の条項にかかる検討として、裁判所は、まず、利用規約7条1項c号及びe号について、次のように述べます。

 「Yは、上記各号の『判断』とは、『合理的な根拠に基づく合理的な判断』を意味し、そのように解釈することが一般的な契約実務である旨主張している。
 しかしながら、c号の『他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた』という要件は、その文言自体が、客観的な意味内容を抽出し難いものであり、その該当性を肯定する根拠となり得る事情や、それに当たるとされる例が本件規約中に置かれていないことと相俟って、それに続く『と当社が判断した場合』という要件の『判断』の意味内容は、著しく明確性を欠くと言わざるを得ない。すなわち、上記要件の文言からすると、Yは上記の『判断』を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地があるのであって、上記の『判断』が『合理的な根拠に基づく合理的な判断』といった通常の裁量の範囲内で行われると一義的に解釈することは困難であると言わざるを得ない(なお、本件規約5条1項には、モバゲー会員がモバゲーサイト内に既述した全ての情報及びモバゲー会員間でメール等によりやりとりがされる情報について、真実でないもの、他人の名誉又は信用を傷つけるもの等の同条1項各号所定の事由に該当する情報の記述を禁止することなど、規約違反となる事象を定めているところ、同条1項各号に違反する事象は、本件規約7条1項d号の対象となるものであるから、本件規約5条1項各号をもって、本件規約7条1項c号の例示であると解することはできない。)。
 また、e号は、『その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合』との要件であるが、同号の前に規定されているa、b及びd号はその内容が比較的明確であり、裁量判断を伴う条項ではないのに対し、e号については、『その他』との文言によりc号を含む各号と並列的な関係にある要件として規定されつつも、c号と同じ『判断した場合』との文言が用いられていることから、c号の解釈について認められる上記の不明確性を承継するものとなっている。」

Yは、利用規約7条の各号の定めは、ごく一般的なものであるとして他企業の各種サービスにかかる規約を提出する等していましたが、裁判所は、それらの規約の中には、「合理的な理由に基づく判断」「合理的な判断」と明示されているものや、これらが明示されていなくとも例示事由が多数列挙されているものが見受けられ、他方でYの規約のような文言のみをもって解除事由と定めたものはないと認定し、Yの主張を否定しています。

 「……それらの規約の条項の中には、利用資格失効等の措置をとる場合には『合理的な理由に基づく判断』又は『合理的な判断』を行う旨の文言を明示しているものがあり……、また、『合理的な理由に基づく判断』又は『合理的な判断』を行う旨の文言はないが、例示が多数挙げられているもの……も見受けられる。他方、本件契約のように、会員相互間の関係を生じるサービスに係る規約において『他の会員に不当な迷惑をかけた』といった文言のみをもって、例示を伴うことなく契約の解除事由等としているものは見当たらない。このように、Yが提出した規約の例をみても、上記各号のような定め方が一般的であるとまではいえない。」

以上を踏まえ、裁判所は、利用規約7条3項について、次のように述べ、Yが利用規約の文言の修正を行わないとの立場を明らかにしていることにも照らし、当該条項をYが自己に有利な解釈に依拠して運用している疑いを払拭できないとして、法8条1項1号及び3号各前段に該当し、よって差止事由が認められると判断しました。

 「本件規約7条3項は、単に『当社の措置により』という文言を使用しており、それ以上の限定が付されていないことからすると、同条1項c号又はe号該当性につき、その『判断』が十分に客観性を伴っていないものでも許されるという上記の解釈を前提に、損害賠償責任の全部の免除を認めるものであると解釈する余地があるのであって、『合理的な根拠に基づく合理的な判断』を前提とするものと一義的に解釈することは困難である。
 そうすると、本件規約7条3項は、同条1項c号又はe号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められると言わざるを得ない。
 他方、Yは、本件規約7条1項c号又はe号の『判断』とは『合理的な理由に基づく合理的な判断』を意味するとの主張をしながらも、そのように文言を修正することを拒絶しており……、また、本件規約7条3項につき、『当社の責めに帰するべき事由による場合を除き』といった文言……を付加するような修正はしないとの立場を明らかにしている……。
 そして、証拠……によれば、モバゲー会員からは、全国消費生活情報ネットワークシステムに対し、Yによりモバゲーサイト上のゲームの利用の一部を停止されたが、Yに問い合わせても理由の説明がされず、かつ、すでに支払った利用料金2万円の返金を拒まれているなどの相談が複数されていることが認められるところ、利用停止措置をとる場合のモバゲー会員に対するこのような対応ぶりに照らすと、Yは、上記のような文言の修正をせずにその不明確さを残しつつ、当該条項を自己に有利な解釈に依拠して運用しているとの疑いを払拭できないところである。
 以上で判示したところによれば、本件規約7条3項は、同条1項c号又はe号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められるところ、Yは、当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれ、それにより、同条3項が、免責条項として機能することになると認められる。」

利用規約第12条第4項について

裁判所は、利用規約12条4項は、責任全部免除規定でないことは明らかであって、そもそも法8条1項1号及び3項の各前段に該当しないとして、差止めを認めませんでした。

まとめ等

前記利用規約や前記回答書を見るに、Yも、消費者契約法におけるリスクは十分理解していたことが窺われます。
すなわち、Yに故意重過失があれば免責条項は適用されずに損害賠償を行い、また、軽過失であれば1万円の限度で損害賠償を行います、といういわば逃げ道も用意していたことになります。

もっとも、裁判所は、上述のとおり、利用規約の一部につき、要件が抽象的な文言で、かつ、考慮要素や例などが挙げられていないため不明確であること、また、端的に「判断」とだけのみ記載されており、極めて広い裁量がDeNA側にあると解釈する余地があることを指摘した上で、DeNAが利用規約文言の修正を拒絶していること及び実際の(元)モバゲー会員からの相談内容に照らし、DeNA側が利用規約の一部の条項を自己に有利な解釈に依拠して運用しているとの疑いを払拭できないと判断するに至りました。
なお、差止めについては、無効となる条項を利用した契約を行うおそれがあれば足り、実際にそのような運用をしていること自体の立証まで求められているわけではありません。

今回の裁判例が出た結果、B2Cサービスを提供し、これに伴いサービスにかかる利用規約を設ける事業者につき、当該利用規約の文言が不明確にならないよう、改めて注意を払う必要が生じることになると言い得ます。
もちろん、控訴された場合には、東京高裁で結論がひっくり返る可能性もあるとはいえ、現時点では、利用規約の優劣関係が明確であるかどうかをチェックした上で、必要に応じてその修正をすべきということになるかと思われます。

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