弁護士 野溝夏生

東京地判平成29・3・21(リリース日の延期と債務不履行)

事案の概要

本件は、原告(X)が、被告(Y)との間で締結した、Xのウェブサイトのシステム開発業務委託契約に基づく報酬が支払われていなかったことから、当該報酬の支払いを求め、他方で、Yが、Xには同契約に関し債務不履行があったとして、債務不履行に基づく損害賠償の支払いを反訴で求めた事案です。

時系列

H25.10初頃 Y、C株式会社から委託されたキャンペーン企画に関するプロジェクト業務を受託
H25.10.10-12頃 X=>Y、Xが行っているプロジェクト管理手法を用いることを提案
H25.10.16頃 新規機能を開発対象とするとの方針
H25.10中頃 新たにティザーサイトを公開するとの方針
H25.11.1 ティザーサイト公開
H25.11.1頃 Y・X、前記プロジェクトのうちキャンペーン期間中に開設するサイトにかかるシステム開発委託契約締結
H25.11.7 X=>Y、キャンペーンサイト開発が間に合わない可能性が高い旨を伝える
H25.11.11 X=>Y、キャンペーンサイト公開を延期する必要がある旨を伝える
H25.11.18 キャンペーンサイト公開予定日
H25.11.22 キャンペーンサイト公開
H25.11.24 X=>Y、報酬支払催告
H26.9.11 Y=>X、損害賠償請求

主な争点(一部省略)

裁判所の判断

仕事の完成の有無について

裁判所は、「仕事の完成の有無は、仕事が当初の請負契約で予定されていた最終工程まで終えているか否かを基準に判断すべき」という旨の立場から、仕事の完成は認めました。
なお、この基準については、裁判例上、建築紛争の場合と同様に、一般的な基準として用いられていると言っても過言ではないと思われます。

 「再リリース日において本件キャンペーンサイトは公開されている。Yの主張によっても、本件キャンペーンサイトに多少のバグがあることは想定されていたというのであり、本件リリース日の午前6時頃までには、多少のバグがあってもとりあえずガチャアプリを機能させてガチャを回せる限度で公開し、バグはその後修正していくことになったのであるから……、本件キャンペーンサイトは再リリース日には一応完成したものと認められる。Yが本件キャンペーンサイトについて不備があったと主張している点については、Xの債務不履行責任の有無として検討されれば足りるというべきである。」

Xの債務不履行責任の有無について

前記のとおり、いくつかの不具合をYは主張していました。
そのうち、表示の不具合については、Yの主張によっても明らかでない等の理由により、Yの主張は採用されていませんので、これは省略することとします。

文字化け

裁判所は、リリース予定日に文字化けを生じさせたことについてはXが債務不履行責任を負うとしながらも、再リリース日にはキャンペーンサイトを公開していることから、結局のところ、Xが文字化けについて債務不履行責任を負うか否かは、履行遅滞が成立するか否かの問題に帰着する旨を述べました。

 「本件プロジェクトは元々日程が過密であり、さらにその後当初予定されていなかった事前登録機能が追加され、ティザーサイトが公開されることになり、Xが当初リリース日の午前7時まで徹夜で作業を続けたなど、Xがシステムデータの変換を失念したことについては少し注意を払えば容易に防ぐことができたものといわざるを得ない。よって、Xは、当初リリース日に文字化けを生じさせたことについて債務不履行責任を負うものといわざるを得ない。
 しかしながら、Xは、当初リリース日である平成25年11月18日の午後3時頃までには文字化けの不具合を修補し……、遅くとも再リリース日である同月22日には本件キャンペーンサイトを公開している。そうすると、Xが文字化けについて債務不履行責任を負うか否かは、結局、後記……の履行遅滞責任の有無に帰着することになる。」

「債務不履行責任を負うものといわざるを得ない」とする一方で、「Xが文字化けについて債務不履行責任を負うか否かは、結局、後記……の履行遅滞責任の有無に帰着することになる。」と裁判所が述べたことは、率直に言ってわかりにくいのでどうかとも思いますが、他方で言わんとすることもわからなくはないので、なんともいえないところです。

レアガチャに関する設定ミス

Yの主張によると、本来、レアガチャ(レアクーポン)の出現割合の分母は、総発行クーポン数に設定されるべきだったのであり、Xもこれ自体は争っていませんでした。
裁判所は、Xの設定ミスについて、次のとおり、これを修補するまでの限度で、Xは債務不履行責任を負うと述べました。

 「Yは、Xが誤ってレアクーポンの出現割合の分母を25と設定してしまい、高い確率でレアクーポンが出現することとなった旨主張するところ、そのような現象が生じたことについてはXも認めている。……よって、上記設定の誤りについて、Xが債務不履行責任を負うものといわざるを得ない。
 ただし、Xは、レアクーポンを出現させる機能を作動させてから1,2時間程度で設定の誤りに気づき、レアクーポンを出現させる機能を一旦停止させ、同月30日午後3時又は午後4時頃までにレアクーポンの設定を修補し、レアクーポンを出現させる機能を再度作動させている……。そうすると、Xは、上記1,2時間の間に予定よりもレアクーポンを多く出現させてしまったことに係る損害と、レアクーポンを出現させる機能を同月29日の午前1時又は2時頃から同月30日午後3時頃まで停止させた限度で債務不履行責任を負うにとどまる。」

レポート開発の不備

Yの主張によると、YはXに対して、レポートではクーポン消費値のデータを残すようとの指示を行ったにもかかわらず、Xがこれを怠ったということでしたが、Xもこれ自体は争っていませんでした。
裁判所は、次のとおり、これを修補するまでの限度で、Xは債務不履行責任を負うと述べました。

 「Yは、Xはレポートでクーポン消費値のデータを残すように指示されていたにもかかわらず、Xがこれを怠りクーポン消費値のデータが一部削除されてしまった旨主張するところ、X代表者も、クーポン消費値のデータをレポート出力できるようにしなかったのはXの責任である旨を認めている……。そうすると、Xは、この点について債務不履行責任を負うものといわざるを得ない。
 ただし、Xは、クーポン消費値をレポート出力するようシステムを修補している……。そうすると、Xは、その修補がされるまでの間、クーポン消費値のデータが削除されてしまったという限度で債務不履行責任を負うにとどまる。」

Xの履行遅滞にかかる責任の有無

本件では、当初予定されていたリリース日にはキャンペーンサイトを公開できず、当初リリース日から4日が経過した日に、キャンペーンサイトは公開されることとなりました。

一般論として、納期が決まっているにもかかわらず、その者の都合によって納入等を納期に間に合わせられなかった場合、履行遅滞として、債務不履行責任を負うこととなります。
納期が特定の時期として決まっていたことや、当該納期に納入等が間に合わなかったことに争いがない場合には、履行遅滞を生じさせた原因が誰にあるか、ということが争点となります。

もっとも、今回キャンペーンサイトの公開が遅れたのは、そもそもプロジェクトの日程がタイトであった上に、当初予定されていなかった機能やティザーサイトの公開等を行うことになったという事情があったほか、Xがサイトを作成するために必要な素材がXに交付されたことが遅れた等の事情によるところが大きいとされています。
また、Yはプロジェクトの進行を管理すべき地位にありながら、素材の交付が遅れていることを把握していない等、進行管理を十分に行っていなかったとされています。

裁判所は、これらの理由から、キャンペーンサイトの公開が遅れたことについては、Xの責めに帰することができない事情によるものであったとして、Xには履行遅滞にかかる債務不履行責任はないとしています。
この判示については、ユーザが本来行うべきであった事項を行わないという、ユーザの協力義務違反があったという意味にも捉えられるように思われます。

 「以上からすれば、本件キャンペーンサイトが当初リリース日に公開することができず、それが再リリース日にずれ込んだことについては、①元々日程が過密であったこと、②それにもかかわらず、当初予定されていなかった事前登録機能の追加及びティザーサイトの公開が追加されたこと(ディレクターであるYは、C'又はBなどに対し、このような機能を追加すれば当初リリース日に公開が間に合わなくなるおそれが(あ)ることを忠告することも可能であった。)、③Eがデザインの入ったHTMLファイルをXに対して交付するのが遅れたこと、④ディレクターであるYが本件プロジェクトの進行管理を十分に行わなかったこと、⑤XとEとの間、XとDとの間など、本件プロジェクトについて役割分担をした者同士の間で十分な意思の疎通が図れておらず、このような意思の統一をすることはディレクターであるYの役割であったこと、⑥過密な日程がさらに押したものとなり、Xは当初リリース日の公開予定時刻の1時間前にもなお修正作業を続け、公開前のテストを行う時間もなかったこと、⑦Xはこのように時間に追われ、平成25年11月13日以降、24時間体制で開発作業を続けた結果……、文字化けのような凡ミスが出ることとなった。
 このように考えると、文字化け、レアクーポンの出現割合の設定ミス及びレポート出力の不備など個別の不具合についてはXが債務不履行責任を負うということができるとしても、本件キャンペーンサイトを当初リリース日に公開することができず再リリース日になってようやく公開にこぎ着けたという本件委託契約に係る履行遅滞について、Xの責めに帰することができない……。
 そうすると、Xが本件委託契約に係る履行遅滞責任を負う旨のYの主張は理由がない。」

まとめ

事案としてはままある、タイトなスケジュールにもかかわらず、予定されていなかった機能等の開発の要望がユーザからなされ、結果として予定されていたリリース日にリリースができなかった、という事案です。

ベンダにはプロジェクトマネジメント義務が、ユーザには協力義務が、それぞれ課せられているとされるように、ベンダとユーザがそれぞれ当事者としてプロジェクトに参加すべきであると考えられます。

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