弁護士 野溝夏生

リバースエンジニアリングと改正著作権法

リバースエンジニアリングとは

リバースエンジニアリングとは、ソフトウェアやハードウェア製品の構造等を分析し、ソースコード等の技術情報を調査して明らかにすることをいう、とされています。
最近ですと、2019年にNSA(アメリカ国家安全保障局)が開発した「Ghidra」が一般公開され、一部では話題になっていたようにも思われます。

リバースエンジニアリングと改正前著作権法

さて、リバースエンジニアリングは、その対象となるプログラムがプログラムの著作物に該当する場合、少なくとも形式的には著作物を複製等して利用することがほとんどです。
そこで、平成30年改正前著作権法においては、著作権侵害に該当するかどうかが不透明であり、この意味での法的リスクが存在していました。

リバースエンジニアリングと平成30年改正著作権法

ところで、平成30年改正著作権法第30条の4では、いわゆる「柔軟な権利制限規定」が設けられました。
この規定により、著作物の利用行為が、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用に該当する場合は、著作権が制限され、すなわち、著作権侵害に該当しないこととなります。

第30条の4 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。(略))の用に供する場合
三 前2号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」

令和元年10月24日、文化庁著作権課から、同日付で、「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」(以下「考え方」といいます。)というものが出されました。

これによると、リバースエンジニアリングのような「プログラムの調査解析目的のプログラムの著作物の利用は、プログラムの実行等によってその機能を享受することに向けられた利用行為ではないと評価できることから、法第30条の4の『著作物に表現された思想又は感情』の『享受』を目的としない利用に該当するものと考えられる。」(「考え方」p11「問12」)とされています。
その他、逆コンパイルした後に再度コンパイルする場合や、解析を困難にする機能が組み込まれているウィルスプログラムの当該機能を除去する場合、プログラムの解析の訓練等のために調査解析を行う場合等についても、「『著作物に表現された思想又は感情』の『享受』を目的としない利用に該当するものと考えられる。」(同上)とされています。
これは、「表現と機能の複合的性格を持つプログラムの著作物については、対価回収の機会が保障されるべき利用は、プログラムの実行などによるプログラムの機能の享受に向けられた利用行為であると考えられる」という文化審議会著作権分科会報告書からすると、プログラムの実行等に該当する行為でなければ、プログラムの機能の享受に向けられた利用行為ではない蓋然性が高い、という前提に立つものと考えられます。

もちろん、裁判所における司法判断は、文化庁の「考え方」に拘束されるものではありませんが、「考え方」が述べていることは、一つの重要な目安になることは確かであるといえます。

まとめと注意

以上のとおり、リバースエンジニアリングは、平成30年改正著作権法第30条の4により、原則として著作権法違反とはならない、ということになります。

契約違反の可能性

ただし、「考え方」でも触れられているとおり、利用契約等にリバースエンジニアリングを禁止する旨の条項がある場合には、著作権法違反とはならずとも、契約違反となる可能性が依然残ります。

例えば、シュリンクラップ契約(ソフトウェア等の媒体の封に、契約の内容が表示され、かつ、開封すると契約が成立する旨の表示がなされ、これを開封することにより成立することとなる契約)では、開封した時点で契約が成立します。
開封しないでリバースエンジニアリングを行うことは考えがたいため、禁止条項がある場合、これに反してリバースエンジニアリングを行うことは、契約違反となる可能性が高いといえます。

契約方式も様々なものがありますので、一概には言えませんが、著作権法違反にならないという一事をもって安易にリバースエンジニアリングを行うのではなく、締結している契約条項をも確認した上で、リバースエンジニアリングを行う必要があるといえるでしょう。

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