債務の履行は、債務の発生原因となる契約に適合する形で行う必要があります。
すなわち、ベンダは、ソフトウェア開発委託契約に適合する成果物をユーザに納品する必要があります。
ソフトウェア開発において、成果物であるプログラムに不具合が生じることは不可避です。
裁判例では、ユーザからの不具合の指摘がなされた後、ベンダが遅滞なく修補を終えるか、両者協議の上で相当な代替措置を講じたと認められるときは、契約不適合に当たらないとされています(旧法下における裁判例ですが、改正法においても変わるところはないと考えられます。)。
したがって、単にプログラムに不具合が生じている程度では、契約不適合とはされない可能性が高いです。
他方で、次のような場合には、作成したプログラムの不具合は、契約不適合とされる可能性が高いことになります。
もっとも、不具合が契約不適合といえるかどうかはケースバイケースで判断されるところであり、あくまでもこれらは一応の目安ということとなります。
成果物がソフトウェア開発委託契約に適合していなかった場合、別段の定めのない限り、ユーザは、ベンダに対して、次のような請求ができることとなります。
契約で別段の定めのある場合には、原則としてこれに従うこととなります。
ただし、ユーザに責めに帰すべき事由があったときは、次の請求をすることはできません。
また、ユーザが契約不適合を知ってから1年以内に不適合の旨をベンダに通知しないときは、契約不適合を理由とする次の請求をすることは原則できません。
ユーザは、ベンダに対し、成果物のうち契約不適合部分を修補するよう求めることができます(民法562条1項)。
例えば、仕様書と成果物とで食い違っていた部分があるときは、仕様書の内容に適合するようにソフトウェアの修補を求めることができます。
ただし、ベンダは、ユーザに不相当な負担を課するものとならない限り、ユーザが求めた方法とは異なる方法で追完を行うことができます(民法562条1項ただし書)。
ユーザは、ベンダに対し、相当の期間を定めて、成果物のうち契約不適合部分の修補等の追完を求めたにもかかわらず、当該期間内に追完がなされない場合には、契約不適合部分の割合に応じた報酬の減額を求めることができます(民法563条1項)。
例えば、先ほどの例で、修補を求めたにもかかわらず、相当期間が経過しても修補がなされなかった場合には、仕様書と成果物とで食い違っていた部分の割合に応じて、ベンダに支払う報酬の減額を求めることができます。
また、次のいずれかに該当する場合には、追完を求めずとも、直ちに契約不適合部分の割合に応じた報酬の減額を求めることができます(民法563条2項柱書)。
ユーザは、ベンダに対し、成果物が契約不適合であったことによりユーザが被った損害につき、その賠償を請求することができます(民法564条、415条)。
なお、代金減額請求をする場合には、代金減額的な趣旨の損害賠償請求と代金減額請求は両立せず、すなわち二重取りとなってしまうため、その限りでいずれか一方のみしか請求することはできません。
ユーザは、ベンダに対し、成果物が契約不適合であったことによりユーザが被った損害につき、その賠償を請求することができます(民法564条、541条、542条)。
なお、代金減額請求をする場合には、代金減額請求が契約の一部解除の性質を有するため、これらは両立せず、契約を解除することはできません。
ユーザは、ベンダに対し、相当の期間を定めて、成果物のうち契約不適合部分の修補等の追完を求めたにもかかわらず、当該期間内に追完がなされない場合には、契約を解除することができます(民法541条本文)。
ただし、契約不適合部分が軽微であったときは、契約を解除することはできません(民法541条ただし書)。
主に次のいずれかに該当する場合には、追完を求めずとも、直ちに契約を全部解除することができます(民法542条1項柱書)。
次のいずれかに該当する場合には、追完を求めずとも、直ちに契約を全部解除することができます(民法542条2項柱書)。
成果物に契約不適合があった場合には、ユーザは、ベンダに対し、前記各請求をすることが原則として可能です。
しかし、ユーザの主張する契約不適合部分が、そもそも契約の内容であったか、すなわち、契約不適合といえるかどうかが争われることが多くあります。
この場合には、ユーザから追加開発作業を求められたため、これに応じて開発を行ったとして、ベンダがユーザに対して追加報酬の請求を行う形で紛争となることが多いです。
問題となる作業が、仕様書に記載された内容の詳細化にすぎない場合には、ベンダがもともとしなければならなかった作業にすぎず、追加開発作業とならないのが通常です。
例えば、フォントの変更等は、原則として追加開発作業とはならないと考えられています。
他方、確定した仕様書に記載されていない内容の開発については、もともと契約上求められていなかった作業ですから、原則として追加開発作業ということになります。
例えば、仕様確定後に仕様変更や機能追加を求められ、これに応じて開発を行った場合、当該開発部分は、原則として追加開発部分ということになります。
追加開発作業部分については、原則として、ユーザは、ベンダに対し、別途報酬を支払わなければならないこととなります。
この報酬について、契約で定めがあればよいですが、契約に定めがない場合には、商法512条に基づき、作業量に応じた相当報酬を請求することとなるものと考えられます。
成果物に契約不適合があった場合でも、ユーザにその責任がある場合には、前記各請求をすることはできません。
また、仮に、ユーザが前記各請求をできる程度にはベンダにも責任があった場合でも、損害賠償額を決定する上では、ユーザ側にも落ち度があったとして、損害賠償額が減額されることは十分あり得るところです。
したがって、ユーザは、仕様確定後に仕様変更や機能追加等の要望をベンダに対して行うことは、可能な限り控えるべきですし、仮にこれを行う場合には、ベンダと十分に協議を行うべきであるほか、契約不適合に関するリスクがあることを認識すべきであると考えられます。
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