弁護士 野溝夏生

システム障害

運用・保守契約の性質、特徴等

運用・保守は、システムを円滑に稼働させ、又はシステムを業務に支障のないように若しくは業務に適合するように、不具合の修正や機能の改善等も含め、維持や管理を行うものです。
これは、具体的に何かを完成させることとは異なることがほとんどですから、請負契約ではなく、準委任契約であることが多いかと思われます。
ただし、実際には具体的な不具合の修正や機能追加がメインということであれば、保守契約等という表題であっても、請負契約であるとされることもあり得るところです。

運用・保守は、モノを完成させるという段階ではありませんから、そもそもベンダは何をどこまで行えば足りるのか、という点が漠然としがちです。
そこで、運用契約や保守契約のほか、SLA等の合意規定がある場合には、これらに従い、又はこれらを参考として、適切な運用・保守がなされていたのかどうかが判断されることとなります。

システム障害に関するトラブルにおいては、ユーザからの債務不履行責任又は不法行為責任に基づく損害賠償請求や、契約の解除が問題になるものと考えられます。

システム障害が生じたときに考えられる損害

あくまでケースバイケースとなりますが、大まかには下記の費用が損害として挙げられると考えられます。

なお、将来の取引によって得られた利益(将来利益)が損なわれた場合、理論上は当該利益も損害となります。
しかし、他方で、システム障害のために将来利益が損なわれたという立証は必ずしも容易ではなく、現実に損害として扱われる可能性が必ずしも高いわけではありません。

損害額の減額要素

仮に損害賠償責任を負うこととなった場合でも、ユーザに過失があった場合や、運用・保守事業者の負う責任を制限する条項がある場合には、損害額は減額される可能性があります。

○過失相殺

例えば、ユーザに操作ミス等がありそのためにユーザに損害が発生したような場合や、ユーザにも修正担当部分があったにもかかわらずユーザがこれを怠っていた場合には、過失相殺(民418条、722条2項)がなされ、損害賠償額が減額される可能性があります。

○損害賠償額制限条項

保守・運用契約では、次のように、損害賠償額を制限する旨の定めがなされていることも多いかと思われます。

損害賠償の累計総額は、債務不履行、法律上の契約不適合責任、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、別紙に定めた損害賠償限度額を限度とする。

このような損害賠償額を制限する旨の定めを、ここでは損害賠償額制限条項といいます。
損害賠償額制限条項は、民法420条第1項にいう賠償額の予定の一類型とされています。

このような条項は原則有効ですが、損害賠償請求の相手方に、当該損害発生につき故意又は重過失があった場合には、このような条項があっても、損害賠償額は制限されないとの考え方が有力となっています。

運用・保守事業者として注意すべき点

稼働中のシステムにつき、何らかの変更を加えることもあり得るかと思います。
本番環境にいきなり変更を加えてしまって取り返しのつかないことにならないよう、テスト環境で確認をしてから本番環境で変更作業を行う等、システム障害をなるべく発生させないような方法を選択すべきでしょう。
また、事業者としてなすべき範囲が不明確となりがちですから、SLA等の合意を行っておくことも重要であると考えられます。

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